僕らは....4
新作のマンガを購入した後、俺が帰ろうとすると
「冬夜。これ以上、神崎紅を好きにならないでほしい……」
「……え?」
「それだけは伝えておく。じゃあ、また明日、冬夜」
「あ、ああ」
紅蓮は意味深なことを言って、自分の家の帰る方向へと足を進めた。
俺も新作のマンガを購入して、他に行く場所もなかったので帰路についた。
* * *
「ただいま」
「おかえりなさい、冬夜さん」
俺を真っ直ぐ迎えてくれたのが、俺の母である神崎雫 (かんざき しずく) 。
腰まである長い黒髪。大和撫子のように綺麗だと近所では有名だ。
言葉遣いも丁寧で、息子である俺のことも「さん」づけ。
父さんのことが大好きで、俺のことも大切にしてくれる。
たまにスキンシップが激しくて、急に俺にも抱きついたりもして反応に困ったりもするが、それでも優しい母さんが俺は好きだ。
「冬夜さん、まずは荷物を部屋に置いてきなさい」
「ああ」
部屋にスクール鞄を置いた俺は一階のリビングへと向かった。
因みに父さんはフランスにいるため、滅多に会うことはない。
食事や風呂が終わり、俺は自分の部屋のベッドでスマホを片手にくつろいでいた。
時間は夜十一時三十分。夏真っ只中なので冷房なしでは寝つけない。
そろそろ寝ようと思うが、今日はなかなか寝付けない。
“これ以上、神崎紅を好きにならないでほしい……”
あれはどういう意味だったんだろうか。
俺が神崎紅を好きになることによって紅蓮、お前にデメリットがあるのか?
そんなことを考えては、俺は泥のように眠った。
* * *
「……夜さん、冬夜さん、朝だから起きなさい」
「あ、あぁ……」
「冬夜さん、どうしたの? 朝から何か考え事?」
「いや……」
母さんに紅蓮のことを相談したいが、親父とも滅多に会うことなく、寂しい思いをしてるというのに、俺のことで心配してほしくない。
そう思ったら俺は普段通りに母さんに接した。
「じゃあ、学校行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい、冬夜さん」
着替えが終わり、朝食を食べた俺は、学校へと向かった。
* * *
学校に着くと、俺は生徒会室へ向かい、扉を開けようとすると鍵が閉まっていた。
「紅蓮、まだ来ていないのか?」
校則を守る紅蓮が遅刻なんてことはまずありえない。
だったら、どうしたというのだろうか?
俺は紅蓮が学校に来ているかどうかを確かめるため、下駄箱を確かめた。
紅蓮の下駄箱には靴があり、既に学校へは来ている様子だった。
しかし、生徒会室へは来ていない。
生徒会室の鍵を取りに職員室に居るかもしれないと思った俺は職員室へと向かった。
だが、職員室へ向かう途中で紅蓮らしき声が聞こえたので、俺は足を止めた。
声が聞こえた場所は新聞部の部室だった。
ドアを開け、紅蓮に話しかけようとしたその時……。
「いい加減にしてください」
「会長、すみませんでした」
「ぐれ、ん?」
今まで見たことのないような怒りの表情を浮かべていた。
紅蓮の怒りの矛先は、新聞部の部長だった。
俺が部室に入ったことにも気付かず、紅蓮は言葉を続けた。
「デタラメな記事を書いて、生徒を惑わすのはやめてください。新聞部は暫く活動中止とします。用はこれだけなので失礼しま……冬夜、なんでここに?」
「生徒会室の鍵が閉まってて、お前も居なかったから探してたんだ」
「そう……でも、用は済んだから生徒会室に一緒に行こう。鍵は僕が持ってるから」
「……わかった」
これ以上は聞くなと紅蓮の目が言っていた気がしたので、俺は何も言わず、紅蓮と生徒会室へ向かった。
「今は会長の言うことを聞いておきますよ、今は……ね」
「……」
俺は新聞部がその時に言った言葉も気にも止めていなかった。
新聞部部長の口元は少し笑っている気がした。
紅蓮に怒られた後なのに、なんで笑っているんだ?
紅蓮は新聞部の言葉は耳に入っていない様子だった。相当怒っていたのだろう。
生徒会室に戻り、紅蓮から新聞部に怒っていた理由を聞くと、最近の新聞部は自分たちで楽しむ、いわば自己満足の記事ばかりを書いているという。
野球部がサッカー部の陰口を言っていた、教師と生徒が不純な交際をしているなどというデマな情報を集めては記事にして、生徒会室前にある掲示板に貼っていたという。
元々は事実ばかりを書いていた新聞部で、それなりに人望が厚く、信頼度も高い。
故に最近のようなデマな記事さえ、皆は素直に受け取る。
そのため、こないだは野球部とサッカー部が暴力沙汰になるまでに発展したらしい。
それを見ては楽しむのが新聞部。
由緒正しき金持ち学校が聞いて呆れる。
そんなデマな記事ばかりが話題となり、紅蓮が新聞部の活動中止を言い渡したという。
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