普通の人間である俺の母さんはドラゴンで父さんは………チワワ!?

菜々瀬 晴人

第1話

 本当に突然の事だが、俺の両親は絶対に他の人とは全く違う存在だと思う。

何故なって?フッ、答えは簡単さ。まず、俺、犬龍 隼人(けんりゅう はやと)は赤ん坊の時に親に捨てられて、孤児院で育てられていた。

そして、2年後にこの夫婦に引き取られて、犬龍家の養子となった。


 この夫婦は俺を本当の我が子のように育ててくれてたのでなんも気にも留めなかったが、俺が当時中学校1年生の時に妙にこの夫婦に異変を感じた。今からその理由を言いたいと思う。


 まず、母親である犬龍 幸子(けんりゅう さちこ)。彼女は愛くるしい顔をしており、身長が120前後で、髪の毛は栗色でロングヘアー。そこそこ男勝りで喋り口調がちょっとキツく、怒ると非常に怖いが、それは俺が間違った行動をした時だけであり、普段は優しい良き母親だ。だが、この母親は一般人とはかけ離れている存在であると俺は思う。


 今、彼女は朝食の準備をしており、目玉焼きを焼いている。それだけだったらまだ普通の光景だろう。焦らずこのまま見てくれ。


 「あん?最近、コンロの調子が悪いなぁー!卵全然焼けてないじゃん!もー、しょうがねぇなぁ!!」


 ーーーと、彼女はそう言って、すぅ、と息を吸い、口から炎を吹き出した。

少しの間だけ、フライパンに炎がつき、フランベ状態になるが、炎はすぐ消えた。彼女は卵の状態を見ると綺麗に焼けてたのか、上機嫌になり、鼻歌を歌いながら目玉焼きをお皿に乗せようとしていた。


 ……….はい!!皆さん!!今の光景に違和感を感じなかったか??そう!!彼女はたった今、炎を吹いたのだ!!

 普通の人間が火を吹くか??否、吹かない!!実感が湧かないのなら、逆に考えて欲しい。皆さんのお母さんは炎を吹きますか??吹かないでしょ??もし、吹くならこの後世代に反抗期なんてものは訪れないから。


 母親はこんな感じ。次は父親の方を見てみよう


 俺の父親は、この家の大黒柱である犬龍 剛志(けんりゅう つよし)。美顔で母と違って身長が190前後で髪の毛は白毛で短髪でいつもボサボサしている。お調子者で、調子乗りすぎると母に半殺しされている。だが、人一倍に家族想いであり、銀行員として勤めて、家族を支えている。


 彼も母親同様、異変を感じている。何故かというと、母親ほどではないが、妙に鼻が利きすぎているのだ。

以前に俺が出掛けようとすると、


 「おい、隼人。お前がいつも帰りに通ってるパン屋なんだが、今日は寄らずそのまま帰って来なさい。」


 「何で?」


 「何か、怪しい匂いがするからだ!いいな?」


 「……….分かったよ。」


 その頃は意味も分からず、父の指示に従ったが、その後にそのパン屋の新しい従業員の中にテロ組織の一員がいたらしく、作ったパンにこっそりと危ない薬物を混入していたことが判明し、ニュースに流れていた。


 ちなみに、俺の家からそのパン屋までは少なくとも5キロは離れている。5キロも距離が離れている上にそのパンに薬物が混入していることを匂いだけで分かるなんて普通の人ではありえないと思う。


 しかも、父は何故なのか分からないが、自分の部屋には絶対に誰も入れさせてくれない。入ろうとするとすぐに叱って追い出す。


 「パパの部屋には面白いものなんてない!!」


 母に相談しても母はその件についてだけは必ず、父の味方をする。妙に異変を感じる。


 そして、俺は中学2年の夏の夜に思い切って母と父に問いかけた。


 「ねぇ、ずっと前から思ってたんだけど、母さんと父さんって本当に人間??」


 俺は一瞬にして空気が変わったのを感じた。母は目を丸くしてこちらを見つめ、父は溜息をついた。


 「そうか。気づいていたのか……….」


 新聞を読んでいた父は小さな声で呟いた。俺の予想は恐らくだが、当たっていたのだろう。


 「お前にはそろそろ教えないといけないな……….。本当の俺たちを」


 「あなた!!」


 「母さん。どっちみち、隼人はもうすぐ15歳になるんだ。逆に教えないと可哀想だろう。」


 父の言葉に母は黙った。いつもならこういう時のやり取りは母が勝つのだが、今回は珍しく父が優勢の立場だった。そして、父はゆっくりと口を動かした。


 「隼人、まずは良く聞きなさい。隼人の言ってる通り、私達は人間ではない。」


 父は母と自分は多種族であることを断言し、俺はゴクリと唾を飲んだ。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 「……….パパ。まず私から話していいかな?」


 母はいつもとは違い、低く、そして震える声で父にとお願いをした。父は指でOKマークを作ると母は俺の方に顔を向いた。


 「まず、隼人。どこで私が多種族だって気づいてたんだ??」


 「……….炎を口から吹い出たのを目撃したところからかな」


 俺は正直に答える。だって、本当のことだもん。なんなら、今日の晩御飯のハンバーグもあんたの炎で、綺麗に焼けている事も知っているからな!?美味しかったけどね!!


 「あちゃー!!てっきりあんたが小さい頃からやってるから当たり前の事だと思ってたのになーーーー!!」


 どんな判断!?まぁ、確かに!幼い頃は当たり前な事だと思ってたよ。けど、忘れもしない小学4年生の時に友達のお母さんに炎を出されるかと質問した時に「この子大丈夫か??」みたいな哀れみの目で見られたあの時……….。

多分、それ以降からだろう。自分の母親は周りの母親と違うのだろうと。


 「隼人。これだけ言わせて。確かに私達はね、人間じゃない。でも、人間じゃないけど、本当にあなたの事を大切に思ってる。だから、私達の正体を知っても嫌いにならないでくれる?」


 母は真剣かつ申し訳ない表情で俺の方をじっと見る。


 「分かった。別に母さんや父さんが何であったも嫌いにはならないよ。約束する」


 母は俺の言葉で涙を浮かばせたが、すぐに、腕で拭き取った。そして、母は自分の正体を明かした。




 「私はね。実はドラゴンなんだ。」




 ………………………はい??




 「300年程前に、国を3つほど滅ぼして……….」


 「待って!待って!え!?どゆこと!?」


 てっきり俺は母は魔女的な存在だと思っていた。けど、ドラゴン!?ドラゴンってあのお伽話とかに出てくるドラゴン!?てか、300年前!?あんた一体いくつだよ!?


 「正確に言うと、終焉龍(しゅうえんりゅう)。そのまま通り終焉をもたらしてしまうドラゴンの種族だよ。あと、魔法が使える。」


 「信じられねぇ…….」


 「……….これを見てもか?」


 母はそう言うと、どこから隠していたのか、肩の辺りから羽根、腰の辺りから太い尻尾をにゅっと生やした。


 「ここじゃ狭いから本当の姿になれないけど、これで信じてくれるか?」


 俺は母の方に近づき、許可を得て羽根と尻尾を触れてみた。確かに、作り物とかではなくしっかりとした筋肉でできていて、鱗がザラザラしていた。


 「確かにこれは作り物じゃないな。信じるしかないや。」


 「怖くない??」


 「大丈夫だよ。だって、母さんだもん。」


 母は涙を流しながら俺をぎゅ、と優しく抱いてくれた。


 「てことは父さんもドラゴンなの?」


 母さんがドラゴンなら父さんもドラゴンだろうと思っていた。だが、


 「「違う」」


 母と父は揃って答えた。


 ……….え!?違うの!?


 「俺の場合は、ここでも正体明かしても大丈夫だから、本当の姿を見せてやろう。幸子、頼む。」


 「分かった。」


 母はそう言って、両手を父の方に向け、ぶつぶつと呪文のような言葉を呟く。すると次第に母の両手が輝き出したのと同時に、父に異変が生じる。

全身に白い毛が次々と生えてきているからだ。


 「父さんは母さんと違って魔法が使えないから、いつもこの人間の姿になる時は母さんにお願いしてあるんだ。もちろん、元の姿に戻る時もな。」


 「父さんは一体なんの……….」


 「ウガァァァァァァォォァァァァァァァ!!!」


 俺の言葉の途中で父が吠えた。そして、徐々に父は変貌を遂げていた。全身に白い毛が覆い、しかも父の顔の形がみるみる変わっていき、獣のような顔つきになっていった。


 俺は悟った。きっと父の種族は獣人族なのだろうと……….。

しかし、変貌を遂げた父の姿は思いもよらない姿だった。


 「隼人。これが……….本当の俺の姿だ。」と、真剣な表情をする父


 「父さん、その姿は……….」と唖然とする俺




 「あぁ、実はな父さんは……….チワワなんだ。」




 そう、元の姿に戻った父の姿は人間の姿よりだいぶ小柄で、白い毛がふさふさしており、四足歩行でちょこんと立っていた。


 てかチワワ!?チワワってあのチワワ??俺、チワワに育てられてもらったの!?


 「困惑するのも分かる。だが、事実なんだ。そこは理解してくれ。」


 チワワとなった父は気軽にテーブルの上まで登り、可愛らしくおすわり状態になって俺に頭を下げた。


 「理解は出来てるんだけど、まだ時間が欲しいんですけど」


 だって、母さんはドラゴンで、父さんはチワワなんだよ??すぐに受け入れろと言われても無理。メロスも磔にされている親友を裏切ってそのまま妹の結婚式を最後まで参加するレベルだよ??


 「あぁ、それでも構わない。ゆっくりでもいいから今の俺達を受け入れてほしい」


 「分かった。」


 この言葉を以って、話は終了した。そして、途中だった夜飯タイムが再開した。

だが、俺は全くご飯が口に入らなかった。

だって、何回も言うけど母がドラゴンで父はチワワだぞ?どんな組み合わせ!?


 だけど、俺はたとえこの夫婦が別種族であっても、嫌いにはならなかった。俺を引き取ってくれたからっていうのもあるけど、ちゃんと俺を人間らしく育ててくれたというのもあるからだろう。


 俺は2人はなぜ、結婚したのかは聞かない事にした。なぜかと言うと、聞くのが怖かったからだ。だって、終焉をもたらすドラゴンと普通のチワワだぞ?絶対に訳があるに決まってる。


 だけど、現在は母も父も常にイチャイチャして幸せそうにしているからそれで良しとしよう。ほら、人間の姿に戻った父は母のあーんをデレデレとし、嬉しそうにして食べている。てか、あんたら息子の前だからな!?


 母がドラゴンで父はチワワ。そして人間であり、2人の息子の俺。これから先、どのような生活が待っているのかは誰も予測できない。


 

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