GHOST & SIMPLEX

鍋島小骨

01 トンカチで六回

 いやはや面倒なことになりやがった、と私は頭の上の方で呆然としながら、頭の芯の方では、この場合もうちょい念入りにアレしないとやっぱこちとら初心者だから心配じゃん? もう五、六発アレしよ。と思っていて、振り上げていた年季の入ったトンカチは重み的にも相当いい感じ。お前このために生まれてきてない? 誤解?

 トンカチはヘッドの方が重くて、持ちやすい形につくられた木製の柄はほどよく長く、私のような未経験無資格でも即戦力として戦えるだけの圧倒的な使いやすさを備えている。まあそれも相手が私よりリーチの長い得物を持っているとか私よりも素手での戦闘に強いとかいうことになると話が変わってくるけど、私も素人、相手も素人、しかも相手はこっちに背を向けている、ということになればこれはなかなかチートである。私の側に躊躇ためらいの心さえ無ければ。

 無かったので私は物理法則最高、力学かっけー、という感じでトンカチを気持ちよく振り抜いて相手をアレしたわけなのだけれども、それで分かったのが、ここまで少面積にすべての力がかかるとさしもの頭蓋骨もトンカチの形なりに凹むのだということで、相手の頭蓋骨は結構素直に直径四センチくらいの陥没を生じたっぽかった。

 南米かどっかの古代文明でも頭蓋骨に穴を開けるレベルの外科的処置が行われていたのだという写真を見たことがある。本当に頭蓋骨にぽこっと穴が開いており、処置のあとも一定期間生きていたらしい。国家ぐるみで呪術的世界観だったはずの時代に頭蓋骨に穴はすげーな、殺すんじゃなくて治療としてやったのはそりゃすげーな、と私は感心した覚えがある。

 それにしても私はこんなもので。生活感ある凶器だな。もっとこう、銃とかさ、あんじゃん。でも銃ってどこで買う? 善良な一般人だからそんな情報持ってないよ。今欲しいと思って急に買えるもんじゃない。一方、トンカチならご家庭の納戸やガレージに普通に仕舞われているものだ。アクセシビリティの高い武器。結局、自分の環境のなかでそこそこベターな選択をしたというわけ。

 と考えているうちに私は五回アレしていて、さすがにもう起き上がってくることはないだろうと思うし、起き上がってきたらゾンビ映画の始まり始まり。ゾンビ、どうやって殺すんだっけ。いろんなタイプがいますよね。私としては焼き払うやつがやりたいっすね。火は最高です。というか、今まさに私の方が、身体の中があぶられるように熱いな。寒気がするみたいに身体の表面がぞわぞわして、髪の毛が逆立ちそう。

 しかしこいつはなぜ死んでいるのだろうか。はなはだ迷惑な話だ。私は面倒が嫌いなんだよ。もうー、動かないじゃん、邪魔くさい。殺されてんじゃねえよ。あーあ、いくら頭ボコボコに陥没させられてるからって、邪魔なもんは邪魔だ。ねえちょっと、自分で歩って帰ってくんない? 頭にはビニール袋でもかぶってればよくない?

 それでできれば、二度と私を不快にさせないで。

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