15:装甲
《装甲》
「イシカワさん、これ見てください。」アイモトが言った。
「なんだ、お前もヒーロー変身セット買ったのか。」イシカワが言った。
戦争終結後、DVD4000枚の発見者であるアイモトと先輩であるイシカワは、故郷のタカオに戻っていた。
終戦から2年が経っていた。甲殻歴2002年。
ここは最近オープンした「ハチオウジ海岸」という名前の飲み屋だ。ピカピカのオレンジの看板が光っている。
「違うんですよイシカワさん、これ、自分が作ったんです。」アイモトが言った。
「いや、そこの店に売ってたやつだろう。来るときに売ってるの見たぞ。」イシカワが言った。
「まさしくその通りなんです。でもねでもね。」アイモトがニヤけた。
「なんだ気持ち悪いな。」イシカワが言った。
「これ作った会社に就職したんですよ。」アイモトが言った。
「え?じゃあまさか。」イシカワが言った。
「自分が企画して作らせました。」アイモトが言った。
「すごいじゃないか、世界的大ヒットじゃないか。」イシカワが驚いて言った。
「そうなんですよ、自分でもビックリです。」アイモトが笑って言った。
それは終戦から約2年が経った頃であった。終戦から1年が経った頃から世界に向けてデータ放送されたヒューマンの変身ヒーローは、世界中で大人気となっていた。
先日10枚目のデータが解禁されたばかりである。
「でもね、納得がいかないんですよ。」アイモトが言った。
「何がだ?大ヒットの特別手当とかの相談か?出たのか?出ないのか?」イシカワが興奮気味に言った。
「いや、出ました。いや、ちがうんです。」アイモトが言った。
「出たのかー、うらやましい。」イシカワが大げさに悔しがった。
「違うんです。そうじゃなくてですね、自分としてはイマイチなんです。」アイモトが言った。
「金額がか!」イシカワが大きな声で言った。
「そうじゃなくてえ。」アイモトが言った。「武器はいいんですよ。玩具なんで、戦争も終わったんで、光るぐらいで。」
「は?」イシカワは何か嫌な予感を感じた。
「でもね、なんかこう、本当の機能を付けたいんですよ。」アイモトが言った。
「本当の機能って?」イシカワが言う。何かをお願いされるような空気を感じる。
「イシカワさん携帯端末の会社ですよね、働いてるの。」アイモトが言った。
「そうだけど。ってエッ?」イシカワが動揺した。「営業の新人だよ?」
「この腕に着けるパーツあるじゃないですか。」アイモトが構わずに話を続ける。
「発言力とか何も無いよ、新人だよ?」イシカワがお願いの本題を言わせないようにバリアを張る。
「この腕に着けるやつ、携帯端末に出来ませんかね。」アイモトが腕にはめるペラペラの銀の筒を持って言った。
「いや、こんなの薄いし小さすぎるだろ。せめてこの胸に着ける大きい硬いやつだろう。」イシカワが角ばった胸当てを指して言った。
「じゃあ胸のセラミック装甲でいいです。」アイモトが言った。「右がモニターで、左が操作スイッチ的なやつでお願いします。」
「いや、ご提案さしあげたんじゃないよ、お断りさせていただいたんだよ。」イシカワが言った。
「そこを何とか。」アイモトがイシカワの手を両手で掴んで言った。
「だから新人なんだって。」イシカワが困って言った。
「絶対に売れますから。」アイモトがじっとイシカワの目を見て言った。
「いやいや、売れるかもしれないけれども。」イシカワが言った。
甲殻歴2003年、男性用携帯電算端末付装甲ブレストが発売された。
そして世界的大ヒット商品になった。
遅れること3か月、女性用携帯電算端末付装甲バストが、体形に合わせて作るオーダーメイドで発売された。
そして世界的大ヒットになった。
差別だとして男性用もオーダーメイドが始まった。この時からオスメスではなく男性女性という呼び方が一般的に併用されるようになる。
それから約1500年後、進化したそれはモコソタンBと呼ばれるようになるが、それはまだ先の話だ。
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