*君の行動力

朝になれば出て行くだろうと思って高を括っていたのだが、彼は結局布団に潜り込んだままの状態だ。さすがに眠いし、本人の意思とはいえ、高校生を自宅に連れ込んだ警官とかシャレにならん。昨日はどうかしていたと思う。

「おい、君・・・」

呼びかけると案外すぐに起きた。既に起きていたのかもしれない。

「その定型文以外話せないわけ。」

「生憎他の呼びかけ方を知らない。」

橋下さんばりに、いきなりあだ名で呼ぶような高等テクも、心のままに跳びつける神田の素直さも、持ち合わせていない。ちなみに状況に応じて呼びかけを変えるような臨機応変さはない。

「それより、そろそろ支度したらどうだ。学校は。」

「今日は休もうかな。」

「サボるな。」

「お堅いねえ。」

いやまあ、警察だし。

彼は一応それでも行く気になったらしく、 あり合わせのもので作った朝食を食べると身支度を始めた。

「ってお前、今から寝るの?その棺桶の上とかで寝たかと思った。」

「私は夜行性だ。夜に寝るようにはできていない。」

「かっこよく言ったつもりか?昼夜逆転ってだけだろ。大二病か、中二じゃなくて。」

「失礼な!これは元々の体質だ。」

「・・・この部屋も?」

「それは・・・遺伝だな。」

彼が笑う声が、今までほとんど誰も訪れなかった部屋にこだまする。

まあ、もう来ることはないだろうが、この不気味な部屋も気を紛らわすのに一役買ってくれたようで、なによりだ。



早朝、疲れ切って帰って来てみれば。

奴がいる。それも玄関にいるとかではなくて、大家のおばあちゃんと話し込んでいるのだ。・・・正直、嫌な予感しかしない。

「じゃあ、この鍵もらっていいんですね?」

よくない!待ってくれおばちゃん。そんな心の叫びは無視されて、銀色に光る鍵は鮒羽の手の中に。

「あら黒部君おかえりなさい。よかったわねえ、いいお友達ができたみたいで。もう連絡先も交換したんでしょう?私、あんまり人の行き来がないものだから心配してたのよ。」

心から嬉しそうにして、にこにこしているおばちゃんと、こちらもまたいい笑顔の不良高校生。

「これからもよろしく、面倒見のいい黒部さん。」

とんでもないやつと関わりを持ってしまったことに、このときようやく気付いたのだった。

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