3.大切なこと

いつも通りの時間に目が覚めた時、今日が日曜ということを思い出す。

そこで、時期的にちょっと迷惑かなとも思いつつ、時間も早いし霜月学院へ電話をかけると、相変わらず本当に嬉しそうに出てくれる八重川さん。もう卒業は決まったので、あと数日もすればこちらに来られるそうだ。

『電話、本当にありがとう。・・・実はそっちに行こうか、ちょっと迷ってたから。』

八重川さんは、神田や久松に加え、自分まで一緒に住むのはさすがに迷惑だろうと思ったらしい。

「とんでもないですよ。お菓子焼いて待ってますから、ちゃんと来てくださいね。部屋にも空きがあるんですから。」

やっぱり電話してよかったと、最近のこともついでに話していた時。目が きらっきらしてる深琴くんが横からじっと見て来たので、そろそろご飯だったことを思い出し、電話を切った。


こっちが普通に伝わってるって一方的に思ってるというのは、結構危ないことなんだよな。・・・相手が鈍いと確かに、さらに危険だよな。言葉を編み出して、連絡手段も発達したのに結局何の進歩もない。今度は絶対に、手遅れになる前にこちらが動かなきゃダメだ。一緒にいたいと思ってるのは、俺の方なんだから。

「浪花さん!焦げてる、焦げてる!」

「うわあ、やっちゃった。」

注意してくれる深琴くんと、成り行きを見守ってニタニタする久松(いや止めろよ)、どんなものでもどんとこいの神田くん。賑やかになったリビングにはまだ空席があるってこと、ちゃんと伝えてよかった。



引っ越しは突然に。八重川さんは電話で話した翌々日スーツケース一個で現れ、そのままの足で一緒に学校に向かった。

・・・なんかあれ、怖さに拍車がかかっている気がするんですけど、気のせいかな?これはきっと気のせいじゃない。彼は教室に着くやいなやものすごい威圧感を放ち、教室の中は水を打ったように静かになった。

そう、彼は背が俺より低いといってもそこそこあるのだ。それで意味もなく威圧するのだから、あっという間にヤバイ人認定されたらしい。髪は地毛だが、不良のように見えなくもなく。知らない人が見れば本当に筋金入りのヤバいやつだ。その方が気が楽だけれども。

さて、彼が問題児っぽく見られているのは外見だけの問題にあらず。

どちらかと言えば、本命は深琴くんである。

見かけはちっこくて可愛らしい深琴くん、そんなのに敵意を剥き出しにしているわけですから。橋下さんはともかく担任の先生は真っ青です。

「やっと出てこられたんですか?八重川さん。随分遅かったですね。」

「んだと・・・」

深琴くんの余計な一言に、ぴりぴりした空気に教室が震える。しかし彼は曲がりなりにも霜月学院の最年少卒業生、もはやレジェンドである。それこそ八重川さんは一度、あの部屋で敗北を喫しているのだ。

そういうわけで、ここで決闘が始まろうと戦争が起きようと、まあ問題ないでしょう。

因みに筋肉同好会の始動は八重川さんが来てからということになっていたので、そろそろ本格始動の予定だ。・・・名前、どうにかならないかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る