チルドレンヒーロー。

空のうに。

演劇少女は飴を与える

 ミーンミンミン、と絶え間なく蟬が鳴いている。

 悠々と大人の背丈を超えながらもまだ伸びる向日葵や、空遠くにある太陽の光を反射する熱々しいアスファルト。積乱雲に囲まれた、台風の目の中のような青空など、全てが夏だった。

 さて、話は変わるが、この世界では、奇病と呼ばれるような病が流行していた。

 奇病――それは、長寿になってきた世界の寿命を一気に下げていく病。

 奇病――それは、寿命という生命時間の代償に、異能を手に入れられる病。

 奇病――それは、絶対に治らない、沢山の種類の病。

 奇病はあっという間に何処からか世界に侵食していった。だから今では、奇病にかかっていない子供や老人などの存在は、皆無に等しかった。

 そんな夏の街を、奇病にかかった二人の少年少女が――茶色い髪をした少女と、オレンジのような髪の、地面から数センチ浮いている少年が――並んで歩いていた。

 「ねえねえ蓮、お腹空かないかい?食べる?」

「腹は空いた。……食べたい」

 フードを被っている少女が、肉まんをコンビニの袋から取り出して、言う。

 「蓮――さっきも言ったけれど、僕らは今から彼の家に行くんだよ。そして君は……」

 蓮、と言われた少年が無表情で言う。

 「わかっている」

 少女がくすくすと笑い少年の頭を撫でた。

 「ほら、ほら、ついたよ。此処が彼の家さ」

 少女が指を指したところは、木で出来た、古臭いログハウスの失敗作のような家だった。

 失敗作、といってもデザイン性の問題で、人が住めそうな家ではある。

 少女はアイスを齧りながら、ピッと、片隅にある一つのチャイムを鳴らした。

 「はいよー」

 チャイムを鳴らした瞬間に声がした。爽やかな少年の声だ。

 「うわっ!ちょ、待ってくださあい!」

 ドサドサ、と物が落ちる音が聞こえた。少年は、もちゃもちゃと肉まんの最後の一切れを食べていた。

 不思議なことに、蟬も、人の声も、何も聞こえない。

 「いいかい、蓮。彼が――」

 ガチャリ、とドアを開ける音が静かな住宅街に響く。

 「――最も崇めなければならない人物さ」

 

 蟬が、また鳴き出した。

 暑い日差しがアスファルトを反射する、八月十二日。

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