あかなめが 巫女を舐めると 敵は死ぬ ~あるいは棄神棄覡(きしんきげき)~

八薙玉造

プロローグ あかなめが巫女を舐めると敵は死ぬ

 都会から遠く離れた山の中。

 闇夜に巫女が舞い踊る。

 白い衣と緋色の袴を翻らせて、歌い、踊り――。

 突き、蹴り、投げをもって挑む。

 その巫女が舞い叩くたび、異形の巨躯が砕けて爆ぜる。

 対峙する巨体は山の生き物に似た、あるいは何にも似ていない。

 巫女――巫覡ふげきは、その敵、熊よりも巨大なケガレを祓う。

 歌い、踊り、突き、蹴り、ケガレを祓うのは巫覡として当然の行為。

 息が上がり、汗が散る。

 そこへ赤い舌が伸びた。

 長くしなやかでしっとりと濡れた舌だ。

 闇の中から来た舌は巫女の首筋を滴る汗を舐め、汗ばんだ鎖骨を這う。

「……ん」

 鼻から抜けるような吐息。

 赤い舌は足袋に包まれた足元から、袴の内に入り込む。

 巫女がかすかに身をよじった。

「あっ」

 そして、薙ぎ払う手刀が先程よりも鋭く、巨象のようなケガレを一撃で切り裂いた。

 前蹴りは覆いかぶさってきた黒い軟体を正面から弾き飛ばす。

 歌い、踊り、突き、蹴り、祓い、舐められ、粉砕し、破壊し、祓う。

 舐められ、歌い、踊り、殴り、祓う。

 

 ……いや、舐められるとかは巫覡として当然でも普通でもなんでもない行為。

 巫覡がケガレを祓うとかは一般はともかくこの業界では当然なんだけど、その中でもやっぱりちょっとありえない!

 慣れてきて、当たり前みたいに見てしまっていたのは自分でもどうかと思う。


 これはその……あたしがちょっと慣れてしまうまでのお話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る