同人誌、作りませんか?

囲会多マッキー

第1話 学生証

 俺は同級生に絵描きであることを話していない。


 それは、中学生のときの親友が裏切ったからである。


俺の今いる学校は、男子しかいない。


まぁ、工業高校だから仕方がない。


 全く人の来ない渡り廊下で俺は、いつもお昼を食べながら絵の構想を練っていた。


渡り廊下に置いてあるベンチには、珍しく人が座っていた。


「あ⋯⋯」


 彼は、その言葉を残してすぐにどこかに行ってしまった。


 俺は彼が座っていたベンチに座って、近くのコンビニで買ったパンを食べながらスマホをいじる。


そして、教室に戻ろうとして立ち上がると


────カタン


音のした場所には学生証が落ちていた。


「あれ⋯⋯?」


もちろん自分のものでは無いのだが、その学生証の写真は誰がどう見ても男なのだ。


 ────名前が女の子なのに。


 俺はとりあえずその学生証に書いてあった住所に行ってみた。


「⋯⋯ここか?」


デカい。あまりにもデカすぎる。こんなとこに住んでいるやつが、うちの学校にいるわけが無い。


 ────よし。もう一度調べよう。


 スマホで何度も調べたが、間違いではないようだ。


 俺は覚悟を決めようとインターホンの前で構えていた。


「どちら様でしょうか?」


「え? いや、えっと⋯⋯」


心の準備がない時に声をかけられると、本当に話せなくなる。


「お嬢のお友達ですか?」


「え? いや、ち、ちが⋯⋯」


「爺、遅い!」


「お嬢、こちらの方はご存知ありませんか?」


「え? 知らな⋯⋯」


出てきたのは明らかに美少女⋯⋯いやおしとやかで美しい女性だった。


「あ、あの⋯⋯これ⋯⋯」


学生証を差し出すと、「あ、ありがとう⋯⋯」と言ってそのまま逃げてしまった。


「すみません。お嬢は酷い人見知りで⋯⋯」


「いえ。それじゃあ失礼します」


「あ! 少し、お待ちいただけますか?」


「え?は、はい」


そう言うと家の中に入ってからそう経たないうちに走って戻ってきた。


すごい息を切らしている。


「こ⋯⋯こちらを⋯⋯お持ち⋯⋯ください⋯⋯」


「あ、ありがとうございます⋯⋯。大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です⋯⋯。ご予定は大丈夫なのですか?」


「あ! 忘れてました。ごちそうさまです」


「お気をつけて」


 俺は、弟を待たせていたのだ。


「⋯⋯夜ご飯何にするかな」


ご飯はあるから、おかずになるもの⋯⋯めんどくさいから惣菜でいいや。惣菜コーナーには輝いて見える────


────とんかつ。


最後の1個は────


「美味しそうなとんかつ♪」


と言ったオバチャンに取られた。


 仕方なく、俺はレトルトカレーと味付けされたお肉を買った。


「598円になります」


太陽は地平線に沈んでしまっている。


帰宅した時間は19時を回っていた。


「ただいま⋯⋯」


「兄ちゃん、遅い!」


「すまん、すまん」


「その紙袋は?」


「これか? 開けてみれば?」


 ガサガサと音を立てながら中から出てきたのは⋯⋯


「わぁ~! 弁当だ~!」


はい? 弁当? なんで? 夜ご飯、買ってきちゃったんだけど? 賞味期限とかやばいんだけど?


 兄の心配をよそに、我が弟は既に弁当に手をつけて「うん! 美味しい!」と言っているのであった。


ちなみに買ってきたものは「明日食べればいっか」と冷蔵庫で眠りについている。


次の日も、彼はあのベンチに座っていた。


しかし、今日は違った。


落とした学生証の裏に手紙がついていたのだ。


────絵描きのさつきさんではないですか?


 正直、「なんで分かったの!?」と聞きたかったがバレたくない一心で、「違います」とその手紙の空いているところに書いた。


そして、彼の家の前に行く。


昨日と違ったのはポストに入れて帰ったことだ。


そんな会話が数日続いた、ある日。


────やっぱり、さつきさんじゃないですか!


 今度は断定してきやがった! なんで? なんで、バレるの!?


 もはやこれは夢としか思えなくなってきた。


 しかも最後には可愛らしい怒りマークがついていた。


 その紙の右下に「p.s.と今日はインターホンちゃんと押してください」と書いてあった。


マジで?あの家のインターホン押すのに俺の寿命が3年くらい短くなる気がするんだけど。


「押さなきゃ、押さなきゃ、押さなきゃ⋯⋯」


────俺には無理だ!


という諦めが思いついたところに、例の爺がきた。


「貴方は、昨日の⋯⋯」


とりあえず、名乗った方がいいだろう。


「は、はい。佐倉田充輝といいます」


「佐倉田様、お嬢がお待ちですのでお上がり下さい」


爺は俺を家まで背中を押すので、逃げられない。無理にでも逃げればいいのだが⋯⋯


「し、失礼します⋯⋯」


 何を言ってるんだ俺! 家なんかに入ったら寿命が30年は縮まるぞ!?


「そんなに緊張なさらないで下さい」


「は、はぁ⋯⋯」


「こちらでお待ちください」


1度入ったら出られなくなるような家である。


やばい。可愛すぎて死にそう。顔を直視出来ないわ。俺、まだ純粋なんだな。

 ↑

 ────そんなわけが無い────


「で、なんで呼んだんだ?」


「えっと⋯⋯それは⋯⋯」

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