女子高生に銃

武田修一

桜舞う季節に飛び交う


 空は青かった。地面は赤かった。


 四月、といって思い浮かぶのは桜、団子、ゾンビの群れ、変質者。なんたって四月だから、春だから。

 ジャコッ、ガチャッ、とリロードをして、目の前のものを打つ。脳髄を吹き飛ばされたものが地面に転がる。まだ完全に感染しきっていないので、血はちゃんと赤い。感染していたとしても、血は赤いのだが。

「春だね!」

 私は元気に言ってみたが、返事は返ってこない。だって、友人は目の前の脳髄を吹き飛ばされた子なんだから。ああ、仕方ない。最後の友人だったけど。


春は、別れの季節でもあるのだから。


×××


 中学生になったころには特に周りにおかしな子などいなかったのに、高校生になるころには周りはおかしなもので満ちあふれていた。世間はなんだかんだと言っていたが、真面目に見てもなかったからなーんにも知らなかった。

 気づいたら周りはゾンビだらけだし、なんか法案できてるし、法律できてるし、銃所持できるようになってなんか配布されてるし、私用の銃はここにあるし。両親も気づいたらゾンビ化してて、駆除されるし?

 中学二年の頃に両親は死んで、しばらくは憔悴してた。んで、気づいたら中学最後の夏になってて、なんか家に住み着いたやつはいるし。殺戮兵器?見た目完全に人間じゃん?

 私の青春は!?銃もってる女子高生ってなによ!

 走馬灯のようにその頃の記憶がよみがえってきて、思わず叫んだ。


「いみわかんない!どうにかしてよカミサマ!」

「意味がわからないのはこっちの方なんだけど。それに、俺にどうにかできると思う?俺ができるのは殺すことだけだよ」

「はぁ~~~~~~!?殺す以外もできるようになって!そんなんだから半人前なのよ!」

「………殺戮兵器なんですけど?半人前ってどういうことだ、コラ」


 ぐりぐりと頬に銃口を押しつけられるが、はねのける。半人前は、半人前よ、と心の中で愚痴りながら、通学路にたまるゾンビを撃つ。ギャッッ、ギャッ、ギャッッッ、とリズムゲーみたいにゾンビが音を出している。ゲームだとすればひどいクソゲーだ。つまんない。

 通学路っていったって。ゾンビがこうも溢れていてはもう意味がわからない。憧れの先輩なんて早々にゾンビに成り果てたし(もちろん頭を撃ち抜いた)、友人もさっき撃ったので最後だった。無様にそこに転がっている。私もいつかああなるのかもしれない。

 生きてる人間なんていうのはとてもレアなものだ。テレビで日本の人口はゾンビによって半分になったって聞いた。最悪。しかもこんな片田舎じゃ、人口なんて限られてるでしょ。

 学校もゾンビだらけだし。街もだけど。こんなんじゃ恋のひとつもできやしないし、友人と出かけるなんてこともできない。青春まっさかりの花の女子高生のはずなのに!


「最悪………」

「手を動かせよ」

「カミサマならなんとかしなさいよ………」

「俺ができるのは殺戮だけだ」


 偉そうなことを言ってるけど、大した仕事はしてないカミサマがいう。国が作った殺戮兵器カミサマは、地形を壊さない程度に配慮された、それはそれは立派な兵器だった。人に近い容姿をしていて、それでもまあ人よりかはいくらか強かった。この兵器はなぜか私に託される。国からは頑張ってね、と言われた。何を頑張れと?

 通達と共にこの兵器が来たときには、これを出した人間とふつーの女子高生に銃を渡してきた人間の頭をぶち抜いてやろうかと思ったほどだ。


「カミサマが来てからもう半年も経つんだよねえ……」

「そうだな」

「ゾンビ減らなくない?」

「そうだな」

「むしろ増えてるよね?」

「知らん」


青い空を見上げて思う。

私の青春返せ――――――!



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