渡り鴉の異世界珍道中

@amondemon

第1話

それは快晴。

底抜けの青に入道雲。

八咫丸やたまるは一つ大きな伸びをして、気に掛けて置いた大太刀を担ぎ直す事にした。

日はまだ高い。今日の内にあの山を越えてしまおう、と決意新たに歩き出した。


肩まである髪を一つに括り、あどけない表情が残る八咫丸がこの度、江戸の剣術道場に修行に出される事になりはや半月。

江戸まであと一息の所へ差し掛かっていた。

あの山を越えれば3日。

迂回すれば1週間というところか。

血気盛んな若者は、多少の無理をしてでもいち早く江戸へ辿り着きたかった。

その山に天狗が出る、と言う噂を聞いていればあるいはーーー。

いや、血気盛んな剣士であれば、どれ、力比べに死合うとしよう、となり、やはり結果は変わらなかっただろう。

月並みな言葉でいえば、八咫丸がその日、その場所へ向かうのは「宿命さだめ」だったに違いない。

長い得物を担いでいるにも関わらず、その大太刀をぶつける事なく、猿のように木から木へ、猪の様に獣道を突き進み、八咫丸はずんずんと山奥へと突き進む。

太陽が傾き始める頃には既に6合を越えていた。

この調子ならば、陽が沈む前には山をおりれそうだと、八咫丸は気を良くし、澤で一休みする事にしたのだが。

残念ながら、そこには先客が。

そして、この出会いが、八咫丸の運命を大きく変えることになる。


遠目にも分かるスラリと長い手足は透明度が高くまるで雪の様。対照的に燃える様な赤い髪。

幾分か距離があり、かつ背後を取る形になったせいで向こうはまだ八咫丸には気づいていないようだった。


(・・・天狗の棲む山があるとは聞いてたけどまさかここがそうだなんてな。

いや、しかしこれはむしろ好都合!

天狗の首を取り、「天狗殺しの八咫丸」の異名を持ってすれば、武者修行の甲斐があるってもんだ。)


考えるやいなや、大太刀の鞘を地に突き刺し、走り抜けながら一気に刀身を引き抜く!


「やいやい!天狗とやら!近隣の人の不安を無駄に煽りやがって!この烏丸 八咫丸が成敗ぃぃい!?」


と振りかぶった刀を慌てて止める。

しまった!とばかり振り返った天狗は、八咫丸が産まれてこのかた見た事もない絶世の美女だったのだ。


「お、おんなぁぁ!?」

「ちょ!なんでこんなトコに人がいんのよぉ!!ダメ!!ダメダメダメダメ!間に合わなーーー」


閃光。

目の前どころか、全てを白く染めるーー。

そして頭部へのごすっという鈍い衝撃の後、八咫丸は完全に気を失ってしまったのである。



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