月宮怪事件簿

アキタタクト

第1話 お探しのページは見つかりませんでした

授業終了のチャイムと、新鮮なオレンジのような夕日が窓から差す。ここは月宮にある高等学校の3年教室。


窓際最後尾の特等席で両腕を後ろに組み、後ろに重心をかけて椅子の前足を浮かせレンズの奥から下校する学生たちを他人事のように眺めている。


彼の名は高嶺悠生たかみねゆうせい。ネットでアングラサイトを覗くのが趣味のどこにでもいるただの高校生だ。


これと言って何かに秀でているわけでもなく、ごくごく普通という言葉が似合う彼は、今日もまたどうでもよさげに視界に存在する風景を達観していた。


はっきり言って、彼の様子は不気味である。ぼーっと考え事をしていると思えば、喧嘩を売ってきた相手の上げ足をさも当然の表情で取り、楽しそうに笑っているかと思えば、次の瞬間にはどうでもよさげに頬杖をついていたり。


きっと思春期特有のものだろうと思いたいが、どうやら彼の中ですべて合点がいく行動のようだ。


ただほかの人間と行動パターンが一致しないだけで、それが彼にとっての普通なのだ。


多くの人は歯牙にもかけないだろうその彼の態度をよく理解し、彼を逆に振り回す者が現在2人程存在する。


今も彼は、水をパンパンに詰めた風船に穴をあけたように玄関から我先にと駆け出していく生徒の群れを見ながら、その二人のことを考えていた。


今日はどういじりたおしてやろうかな、と。


だがその思考もまとまることなく崩れ去る。


「た~か~み~ね~!」


悠生が反応するよりも早く、彼の首を腕の中にとらえ引っ張り上げる。


決まった。完全に入った。見事なスリーパーホールドだった。


特にものともしない悠生が冷静に腕をタップしている彼女は美山蒼生みやまあおい


高嶺悠生の幼馴染で、月宮高等学校の美術部部長でもある。


大胆不敵で自由奔放(いい意味で)、高嶺よりもまじめだが悠生よりも抜けているところがあったりする。


彼女が、彼女こそが、高嶺悠生を振り回す人間の一人である。


ちなみに、彼女がいなければ悠生は高校に進学するどころか中学もまともに行ってない。


悠生が喧嘩や面倒ごとに巻き込まれていると、だいたいは彼女がやってきて悠生を犯人だと決めつけ強制的に平謝りして引っ張り出す。


その強引さに悠生も甘えているところがあるのか、彼女とよくケンカをしているが手を出しているのは一度も見たことがないという。


「わはははは!高嶺ェ!部活に行くぞォ~!!」


ちなみに普段の彼女はこれほどテンションが高くない。いつもならほぼ無表情で「高嶺、部活だ。行くぞ」くらいなのに、今日は悠生が軽く引くほどテンションが高い。


そもそも、月宮高校の美術部はほぼ廃部寸前だ。部員も三人しかいない。


部長の美山蒼生、高嶺悠生、そして今年入部したばかりの1年生、神代かみしろまりるの三人だけだ。


そのうち、まともに美術部として作品を提出しているのは蒼生だけなので実質他二人は幽霊部員のようなものだ。


悠生を左手に引っ提げて、床を引きずって部室への道を駆け抜けていく。


「ちょっ…って…」


悠生の静止を聞く様子なく、階段を2段飛ばし、ジャンプで駆け上がる。


ずざっ!ガンガンガンガン………!!!


彼女のテンションをここまで上げた要因は、悠生にあった。


実はこの先週、クラスメートにとある依頼を受けてしまったのだ。


それはほんの偶然の出来事だった。教室の隅で美術部の部活動費の明細をエクセルに打ち込んでいた時、クラスの女子の一人が話しかけてきた。


同じクラスだが別段仲がいいわけでもない。ただ、クラスの人気者で委員会が同じだったため話したことがある。


彼女と会話すると、取り巻きの男子たちがその後聞くに堪えないひがみを漏らすので正直相手をするのはおっくうだったが、作業しながらという条件でもそれでもいいと話を続けようとしたので、さすがに打つ手を止めて彼女に向き合った。


要約するとなんでも彼女の話では叔父が配達業についていて、その叔父が奇妙な現象に巻き込まれたためその実態を解明してほしいということだった。


正直そんなものは警察とかに言えばいいだろうと異議を唱えたかったが、真剣なまなざしを向けられては無碍にはできまい。


なぜ彼女が悠生のところに来たのか、それを尋ねると彼女はこういった。


「悠生君って都市伝説とか好きだし、黒魔術部に所属してるって聞いてそれで…」


その直後、無残にも悠生に何を言っているんだお前はと冷たくあしらわれ、うろたえながら両手の人差し指をツンツンし始めた。


ため息をつきその依頼を受けた悠生は蒼生をはっ倒そうと考えていた。


黒魔術部といういわれには心当たりがあったのだ。


部室をいつも黒いカーテンで閉め切って、なかからブツブツと何かをつぶやくような声が聞こえたかと思えば、突然悲鳴のような叫び声をあげ始める。


そういう時はたいてい蒼生が絵を描いているのだ。まさに典型的な降臨系の作家といったところだろう。


何を描けばいいか悩んでいる時間が長いが、決めるとすぐに描き上げてしまう。


それが原因で断りにくい相手からの依頼が来たのだ。ちなみにこの依頼のことを蒼生に伝えると、現在のテンションになり、「私の華麗な推理を見せてやる!」とかわけのわからないことをわめき始めた。


とにかく、今まさに蒼生と悠生は依頼主の待つであろう放課後の部室に全力疾走しているのであった。


「とぉ~~~っっっっちゃっく!!」


かかとで急ブレーキをかけ、引きずっていた悠生を手放す。もちろん慣性の法則に従って悠生の体は大きく部室前から投げ出されることになる。


どんがらがらがらがっしゃ~~ん!


そんな悠生に目もくれず普通に部室内に入っていく。


室内にはお茶を飲んでくつろいでいる少女と依頼人であろう中年の男性が座っていた。


「神代さんはやいわね!それからあなたが依頼主ですね!私はこの美術部の部長美山蒼生といいます、今日はどうぞよろしくお願いします!」


口早に蒼生がそう告げると、男性は首をかしげながら一つ質問を唱えた。


「…美術部…?黒魔術部じゃなくて…?」


それを聞いた蒼生も首をかしげ、


「はて?黒魔術部?」


と、つぶやいた。


その瞬間、部室の扉を勢いよく開け、悠生がよろよろと歩いてくる。


「なっ!?高嶺!!ぼろぼろじゃないか!また喧嘩か?」


「お前のせいだお前の!」


本気で心配し顔を覗き込む蒼生に恨めしいといわんばかりに言いつける。


はぁ、と一つため息をつき、黒魔術部と間違えられているみねを伝えると、蒼生は膝をつき徐々に白くなっていく。


「ガーン………そうだったのかぁ………!!」


ただ数秒すると拳を握りしめ、ショックを振り払い、


「しかぁし!私は負けない!芸術とは!かくも理解されがたいものなのだァァァ!!」


暑き闘魂に心を燃やしていた。


そこで今まで優雅にお茶を飲むだけだった少女が初めて口を開いた。


「部長さんの絵はとても面白いわ、黒魔術で使うものなんかよりずーっと」


そういってクスリと笑う様子は、まるで美しい人形の様だ。


彼女が悠生を振り回すもう一人、神代まりる。この美術部唯一の1年生にして祈祷師神代家の一人娘。


熱血素直な蒼生とは真逆で、おしとやかでどこかつかみどころのない性格をしている。


一年生ながらにして大人の風格を漂わせるこの少女は偶然知り合った悠生と蒼生のやり取りをみていつもくすくすと小さく笑っている。


「まりる、あんまり褒めるなすぐ調子に乗るからな。それよりも、だ」


悠生はハイテンションのあまりおかしくなった蒼生を放って、依頼主と話し始める。


そして、彼の語ったことは蒼生を冷静にし、まりると悠生を動かした。


「まずは自己紹介から…。私は月宮市内の郵便配達を承っている嘉納頼人かのうよりとといいます」







その日、彼はいつも通り配達の業務についていた。


時間は夕暮れ時、夜よりも闇が濃くなる逢魔が時だった。


「次の荷物で最後か…」


この時、彼は最後の荷物を届けるため、月宮市西にある龍顎方面の沢沿いの山道にトラックを走らせていた。


左手にはガードレール岸までびっしりと生い茂った雑草が押し出されるようにはみ出しているし、右手には深い暗黒の森が広がっている。


それが宵闇迫る薄暗い夕日に照らされてより一層不気味に見える。


こんな山険しい道をさらに奥に行ったところに、住んでいる人などいるのだろうか?という疑念さえ浮かび上がる。


だが住所録ではこの先になっているし、人気はないが森の影に隠れて明かりのついた民家がちらほらと見えたので人が住んでいないわけではないのだろうと思った。


目の前の道は山の影になってすでに真っ暗だ。山道に入って10分ほど運転して恐怖心が強まってきてもう勘弁してくれというところで、件の郵便先が見えた。


しかしどうにも様子がおかしい。


「本当に人が住んでいるのか?」


そこは全く人気のないということを除けば、ごくごく普通のアパートだった。


宵闇が迫る不気味なアパートで、頼人は一階にあるだろう郵便ボックスに荷物を入れて帰ろうと取り出した荷物を抱えて、すぐさま一階の郵便ボックスに駆け寄った。


しかし期待とは裏腹に、そこに郵便ボックスはなかった。彼がそれを確認した直後、どこからか扉を開くキィーという音が聞こえてきた。


「誰かいるのか…?」


しかしすぐさまバタンと扉が閉まる音がしてその人影を確認することはできなかった。


とにかく彼は安心感を覚えた。どうやらまだ住人は住んでいるようだ。


だが彼は気付くべきだったのだ。こんな鉄筋コンクリートむきだしの廃墟同然のアパートに人が住んでいるなどありえないことに。


息をのんで階段を上がっていく。先は薄ぐらくよくは見えない。人がいるなら電気がつくかと思ったが、スイッチらしきものはどこにも見当たらず、管理人に電気をつけてもらおうとも思ったが、管理人室の場所がわからなかったためそれも無理だった。


夕日はどんどんと沈んでいく。かすかな日差しが視界にさしているうちに帰路につきたかった。


もう一度確認のために手に持った荷物に書かれた住所、部屋番号を確認する。


404号室。


彼はぞっとした。しかしまだ考えに余裕があった。なにも404号室が絶対に不吉なわけではない。


背中に流れる冷や汗から気をそらすように、階段を段飛ばしで駆け上がった。


このアパート、建物の一番はしに階段があるのだが、404号室はその真反対に当たる。


階段を登り切ってほっとしたつかの間に、一瞬401・402・403の扉の隙間からこちらを覗く白い目玉のようなものがギョロっとこちらをにらんだように見えた。


心臓がびくんとはねたが、見えたのはその一瞬だけだったので、気のせいだったと思い込むことにした。


恐怖のあまり走り出したくもあったが、暗闇の中から何かが自分を狙っているような、そんな強い精神的重圧が押し寄せていた。


「はやく404に荷物を届けて帰ろう」


ゆっくりと歩いていく。遠い、ただ遠い。そう感じた。


この恐怖は永遠に続いていくものかのように思われたが、やっとのこと404につくことができた。


インターホンを押そうと手を伸ばしたとき、ドアがひとりでに10cmほど開いたのだ。


恐らくすでに恐怖で感覚がマヒしていたのだろう。なぜか彼は鍵もかけずに不用心だなと、見当外れもいいところなことを考えていた。


空いているならば呼んだ方が早いだろう、そう考えドアノブを手に取り玄関の中に入った。


木造の床が音を立てて鳴る。高鳴る心臓、焦燥に喉を鳴らし息をのむ。


「すいませーん、宅配便です~」


返事はない。それならばもう不在票を置いて帰ってしまおうかと思った。


そうしてボールペンを取り出し、しゃがんで不在票を取り出し框に置こうと顔を上げた時だった。


「アハハハハハハハハハハ」


崩れかけた木材の隙間、剥き出しの柱の影、薄暗い室内のすべての暗闇から、数多の笑い声と無数の薄ら笑いを浮かべた不気味な顔がはっきりと浮かび上がっていたのだ。


「う…!うわぁぁぁぁああああ!!」


彼は恐ろしくなって荷物を放り投げてすぐさま逃げ出した。


真っ暗になった廊下、階段を転がるように降りて自分が乗ってきたトラックに乗り込んだ。


急いで鍵を回すとエンジンがかかる。


この忌々しい地から離れたいという思いから、もしもエンジンがかからなかったらなどと考えたものだが、エンジンがかかればこっちのものだ。


あたりはすっかり暗くなっており、エンジンがかかるのと同時に車内のステレオや時計などの装飾もライトアップされる。


偶然目を向けた彼は時計にくぎ付けになってしまう。



21:30


おかしい、ここについたのは遅くとも18:30程だったはずだ。そうすると彼は3時間もあの部屋にいたことになるのだ。


ほっとしたのもつかの間、先ほどの歪んだ笑顔を思い出して背筋にゾクゾクとした感覚が走る。


ライトをつけ、走り出そうとした瞬間。


「……シ………セ………」


ぼそぼそと車のステレオから何かが聞こえてきた。


初めはここに来る前にラジオを付けていたものが森の奥に来たため受信できなくなって、ノイズが流れているのだろうと思ったが、それは次の瞬間はっきりと言葉として聞こえた。



恐怖のあまりとうとうパニックに陥ってしまった彼は、ライトをつけアクセルを踏もうとしたその時…。


「ウフフフフフフフ」


「アハハハハハハハ」


先ほどの不気味な顔が…、アパートのすべての扉、窓の隙間という隙間すべてから覗いていた。







「ということがありまして…。気が気でなくて、帰る道中のことは覚えていないのですが…」


と、頼人は話を結んだ。


思っていた以上に本格的な話が来てしまい、すでにすっかり冷めきっている蒼生。


それとは逆にまりるはそれを楽しそうにその話を聞いている。


「た、高嶺、どうだ?解決できそうか?」


美山は震える声でそういうと、


「わわわ、私にはちょっと無理そうかなーなんて…」


と付け足した。


「行ってみないことにはなんとも…」


「い、今から行くのか!?」


「いや、もう暗いしまた後日集まって、車か何かで行った方がいいんじゃないか?」


悠生は外側のカーテンを開けて暗くなった外をみてそういった。


頼人もそれに同意した。


「私も暗いうちにあそこにはいきたくありませんから。車は私が出しましょう」


後日の予定を決めたのち、頼人を見送った。


「な、なぁ、どうするんだこれ…、私たちでなんとかできるのか?」


美山が気弱になって、二人に尋ねると、悠生もまりるもそんなことはたいして気にしていないようだった。


高嶺に至っては人としてどうかと思うことを考えていた。


「さぁ?まぁダメそうなら知り合いの寺でも紹介して仲介料として小銭をもらうかな」


「さすがにそれはちょっと…」


悠生は冗談だよと言わんばかりに頭を振って見せたが、まりるは座っていた椅子をもとの位置に戻してこういった。


「大丈夫ですわ、もしだめそうならわ」







そして約束の日、悠生たちは頼人の用意した車に乗って件の場所までいった。


聞いていた通り、鬱蒼な森が続いた道をずっと進んでいく。


気味が悪い。それ以上の感想がわかない。


よくもまぁ、こんな中荷物を届ける気になったものだ。


まりるが楽しそうにゆらゆらと体を揺らしながら、時折外に気配を感じるのか急に顔を向ける。


悠生もそれがわかっているのか助手席で目をきょろきょろとさせている。


「神代さんやめてよ~…みえてるの!?みえてるの!?」


怯える蒼生をからかうかのように、無言でにこにこと見つめたりしている。


そうして車は、件のアパートの前へとたどり着いた。


するとどうだろう、先客だろうかバイクが止まっている。


「あれ…だれかここにいるのかな…?」


頼人はそういったが、他の三人はそのバイクに見覚えがあった。


「あれ結名さんのバイクじゃね?」


高嶺の言う結名さんというのは、高嶺の家が管理する貸家に住む女性で、探偵業を営んでいる女性、九十九結名つくもゆいなのことだ。


何かの事件の調査なのか。


とりあえず車を降りた四人はアパートの真ん前まで来た。


「ここで間違いないんですね?」


まだ昼でだいぶ雰囲気が違って見えるが確かにこのアパートで間違いないとのことだった。


実際に四階まで上がってみても、特に異変は感じられず、また、なにかおかしなものが現れることもなかった。


すると404の扉から一人の女性が出てきた。


全員が驚き身構える。


すると、


「あら?悠生君じゃない!」


聞き覚えのある女性の声がする。


「もしかして……結名さん?」


「え?唯名さん?」


蒼生やまりるも反応する。


「あら?探偵さんもこちらに?」


結名と呼ばれた女性が笑顔で返事をする。


「ええ、ちょっとした調査に…だけど、なんにもなかったわ」


残念そうに手を振って見せる。


「そうみたいね、おかしいくらいに全く反応がないものだからびっくりしちゃったわ」


まりるが笑う。


「なにもなかったんですか?本当に?」


頼人が掴みかかる勢いで食い気味に質問する。


「えぇっ!?…えぇ…まぁ祓えるくらいだから祓っちゃったけど」


それを聞いた彼は肩の荷が下りたように、ため息をついた。


「よかった…、ではもうここに邪悪なものはないのですね」


「そうね、ここにはもうないわね。あ、どうしても気になるようでしたらお札とかありますよ」


ポケットから赤い文字が書かれた白い札を数枚取り出した。


「いいんですか…えっと…お金は…」


と、財布を取り出そうとしたが


「あ、いいんですよ。私探偵ですから、気休め程度にしかなりませんけど、よかったら」


そういってその手に札を握らせた。


「っつーか、こんなとこに一人で来るとか危ないっすよ、何もないことが分かったならさっさと帰りましょうよ。霊は出なくても熊とかやべーんで」


悠生は半分がっかりしたように結名の後ろに回りせかす。


四人に加えて結名もともにして山を下りる。


「本当にありがとうございました!」


「いや、結局結名さんがやっちゃってたみたいなんで俺らは何も。あとはさっさと忘れて、二度と近づかないのが一番すよ」


悠生はありがたみもなくそういうって、ポケットの中の飴玉を取り出し口の中に放り込んだ。


蒼生がそんな態度はないだろと手を伸ばしてくるが、その手に飴玉を握らせ黙らせる。


「本当にその通りだと思うよ」


頼人は自分の行動をひたすらに後悔しているようで、悩みを聞いてくれること自体に感謝しているようだった。


まだ昼すぎだったこともあり、三人はファミレスにおろしてもらった。


そして何度もお礼を繰り返す頼人を見送ったのを見計らって、結名が合流した。


「さっきのおっさん、結名さんにもお礼をって言ってましたよ」


「結名さんもお昼一緒にしませんか?」


「ええ、それに悠生君、何か言いたいことがあったんでしょ?」


結名は悠生の方を見てウインクをした。


蒼生には何が何だかわからなかったが、まりるにはなんのことだかわかっていたみたいだった。


とにかく四人はファミレスに入り、それぞれ適当に注文を頼むと悠生が真剣な顔で指を組む。


「俺は今回気になっていた事がある」


「なんだよ高嶺、そういうのは依頼者の前で言うべきだったんじゃないか?」


蒼生が口をすぼめて言うが、悠生は首を振った。


「とんでもないね、忘れたがってるんだ、知るべきじゃないよ」


まりるも結名もそれに頷いた。


「ええそうね、自分の矛盾にさえ気づけないのですもの、指摘してあげるのは残酷なことね」


まりるの言葉を聞くと、蒼生もしぶしぶではあるが納得したようだった。


それを見た悠生は話をつづける。


「まず、あの建物は俺んちのものだ、ゆえにわかっているのだが、事故物件ではない」


「なっ、高嶺!アレお前んちのだったのか?」


「ああ、詳しく知っているわけじゃない。じいちゃんが生きてた頃に最後の住居者が街から遠くて不便だって言って出て行ってそれからずっと放置だけどな」


「それなのにもかかわらず、あそこで怪異事件が起きた」


結名がショルダーバッグから書類ケースを取り出し、テーブルに広げた。


「悠生君の言う通り、あの物件で事故や事件は起きていないわ。そして、私が祓った霊も大きいものではなかった。いくら夜になったからと言って精神に強く影響を与えるほど動き回れるようになるとはとうてい思えないわ」


結名に続いてまりるが付け足す。


「私たちがついた時点であの場所には霊と呼べる存在はいなかったのよ?」


蒼生が喉を鳴らし、考え込む。


「うーん…、それでも私たちも結構細かいところまで説明されましたし…、結名さんも何かあったからあそこにいたんでしょ?」


「まぁ、そうなのよねぇ、だから私にもさっぱりなのよ」


「美山、お前あの話聞いてて不自然だなって思わなかったのか?」


悠生が半分馬鹿にしたような笑いを浮かべている。


美山は少し思い出してみたが、あまり心当たりがないようだ。


「お前、


それを聞いた瞬間蒼生はああ!と声を上げ、恐怖に身を震わせた。


「それが二つ目だ、まぁ、なんにせよ404号室は封印だな」


その瞬間、結名が首を傾げた。


「404号室なんてなかったわよ?」



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