モデルになった君へ。
街宮聖羅
I LOVE YOU.
海岸線はいつも潮の香りがする。
でも、今日は海岸に来ているのにラベンダーの香りがする。
なぜなら、彼女が隣にいるから。
芳香剤にしては少し強めの匂い。
香って来る香りはいつも鼻の中に充満し、俺の心を落ち着かせてくれる。
それと同時に君に聞こえそうになるくらい拍動する心臓がどんどん鎮まっていく。
この現象はラベンダー本来の効果なのだが、俺は知らなかった。
心拍を抑えてくれることに感謝だがそれ以上に誠意はない。
「話ってなに?」
彼女は俺に尋ねてきた。ド直球のその聞き方は彼女らしい。
落ち着いた鼓動が再び早くなってくる。
「その、あのな」
なかなか言い出せない。というより、頭が真っ白になって何も思い浮かばない。
俺は尻の辺りをポリポリと掻く。
「いいから話してよ。もうすぐ日が暮れそうだから早く帰りたいの」
良い雰囲気を壊していくのも彼女らしい。
先ほどから帰りたい素振りを見せていたことにずっと気付いていたが、何が何でもここで返すわけにはいかない。
「俺、
その一言を言うまでにかかった年月――今日で丁度七年目。
三歳からの付き合いで柑那への想いに気付いたのが小三の時の今日。
言わなければと葛藤し続け今日やっと言うことができた。
俺は告白してからずっと立ったままで、座っている彼女に右手を差し出しながら返事を待っている。
でも、肝心の彼女はというものの。
「え、今更じゃん。って、私のどこが良いわけなの?」
今更…って、やっぱり気付かれていたみたい。
自分ではそんな素振りを一度も見せたことのなかったと自負するほどに柑那には普通に接してきた。
さらには彼女の好きな所を述べよだと?本人の目の前で言うのはちょっときつい。
いくら付き合いが長いとはいっても恥ずかしいものは恥ずかしい。
「んーっと……、接しやすいとことか。笑顔がいいとか?」
「なんで最後は疑問形なの。って、そんなに魅力ないじゃん私」
全部って言いたいのに彼女はそれでは満足してくれないということが目に見えている。具体的に率直に伝えなければ本当には伝わらない。
「その、髪の滑らかさとか。運動出来てスタイル良いところとか。朝はいっつも俺のことを玄関で待ってくれて一緒に行ってくれるし。さらに言えばたまに作ってくれるスクランブルエッグとかも最高に絶妙な甘さを表現しているし。そして、今日来ているオレンジ色のシンプルなワンピースとかすごく似合ってるし……」
「ちょっとキモイかも。けど、そこまで言ってくれるとは思わなかった」
その語尾の後にささやかな笑みがこぼれる。
その笑みは写真に収めておきたいくらい優しい笑顔。
嬉しかったのか照れ隠しのようにすぐやめてしまうけど。
「で、用事は終わった?それなら私帰るけど……」
「俺と付き合ってください」
「いやよ」
一瞬で返された拒否の言葉。あれだけ、人に好きなところを言わせておいて。
いつもならここで折れてしまいそうになるくらいの豆腐メンタルを持つ俺もここで引き下がるわけにはいかない。
「付き合ってください」
「だから、いやよ」
弾き返される俺の想い。まだまだめげない。
「付き合ってください」
「いやだって言ってる」
彼女の表情と言っていることがあべこべなのか顔はそう嫌じゃなさそう。
というより、何かを待っている様子。
「付き合ってください、一生のお願い」
「こんなとこで一生のお願いを使うのはもったいないよ」
付き合いたい、その一心をぶつけている俺の言葉を何度も打ち返す。
一生のお願いなんて今日使わなくていつ使う。
この場だけは諦めたくない。諦めてたまるか。
「ほんっとうに付き合ってほしいんですけど!」
「いや、私の彼氏になって何がしたいの?」
ずっと、隣に居続けたい。それがしたい。
けれど、そんなことを言っても彼女の心に響くはずがない。
だから、俺の全身全霊を彼女にぶつける。
「すべてを愛したいんだよっ!」
「だから、それはキモいって」
ほら、キモイと言いつつも彼女は俺に向かって笑っている。
本当に嫌ならそんな笑顔を見せないでしょ。
俺はすでにここが外であるということを忘れて叫んでいた。
周りには俺たちを見下してくるヤシの木が二本。
そして、
でも、その愛の叫びを聞く人はこの場に一人しかいなかった。
「最後に大声で叫んでやる。柑那!付き合ってくださああああい!」
海に広がる俺の声。
もうすぐ沈みそうな夕陽も愛の告白を見届けてはくれない。
たった一人に向けた愛の告白。
「……はああ。諦めさせてはくれなそう……いいよ。その告白受け取ってあげる。でも、受け取ったからにはちゃんと幸せにしなさいよ?」
命令してくるその声も。沈みかかる夕陽の僅かな光が差して輝く瞳も。
その瞬間。俺の彼女への想いが一層深まる。
「は、はい!しあわせにしますっ!」
思わず涙がこぼれ、頬を伝いながら流れていく。
くしゃくしゃになりそうな顔に対して、やっぱり彼女は。
「やっぱ、キモいよほんとに。フフッ」
やっぱりこのセリフがしっくりきてしまう。
そして、この言葉の後に彼女が俺に見せた初めての表情。
零れ落ちた涙が砂の中へと染み入っていった。
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