第59話 十字路に集合 

 十字路が近づくと、ミコちゃんと精霊が、すでに待っているのが見えた。片手をふると、ミコちゃんもふり返してくれる。


 ノゾムくんは、あたしのほうを気づかう素ぶりも見せずに、さっさと十字路に到着すると、ミコちゃんのすぐそばで自転車をキキッと止めた。


あまりに近くだったので、ミコちゃんがびっくりして飛びのいたけれど、ノゾムくんはわからなかったようで、ニコニコしている。


 あたしがひたいの汗をぬぐっていると、精霊が「アイテムはそろったかな」と言った。おずおずと料理酒のボトルと、玄米の袋をさしだす。それから、ポケットに手をやったけど、何もつかまずに手をぬく。


「あんずちゃん。ここについたら、しゃべってもいいんだって」とミコちゃん。

 あたしはぷはっと息をはきだした。

「なんだ。早く教えてよ。なんか息苦しくってさ」


「そうか、すまない」と精霊。ボトルと袋をじっと見て確認している。

「ふむ。ま、いいだろう」


 いいんだ。

 ならばと、ごそごそとラッカセイをポケットからとり出す。

 両手に乗せ、ちょっとだけ目をそらしながら、精霊のようすをうかがった。


「あの……、大豆じゃないんだけど」


 ここへきて、納豆を持ってきた方がよかっただろうかという考えが浮かんだ。

 たしか、冷蔵庫の奥に賞味期限ギリギリのがあったはずだ。


 ラッカセイより、マシだったかもしれない。

 あっ、とうふもあったはずだ。

 しまったな。


 精霊は、ラッカセイをひとつ、つまみあげると、目の高さまでもっていき、しげしげとながめた。裏がえしたり、ちょっとふったりしている。それから、うーむといって、鼻に近づけ、軽くにおいをかいだ。


「ふむ。ま、いいだろう」


 ひえっ、よかったー。

 こわばっていた体から力が抜ける。

 あたしのせいで、儀式が失敗、地球滅亡になったら立ちなおれない。


「ケイくんは?」

「むむむむむ」


 ミコちゃんにノゾムくんが答えたけど、まだバンソウコウを貼ったままだった。ミコちゃんは目をぱちぱちさせたあと、ゆっくりバンソウコウをはがしてあげる。


「はい、しゃべっていいよ」


 ノゾムくんのにやけ顔ったらない。二年生なのに、ずいぶん、おませな気がする。ちょっと、いやらしい顔なんだもの。それに、さっきから、あたしなんて眼中にないって態度も、しゃくにさわる。


「兄ちゃんは、よし子と来るんだ。よし子、あばれるからな」

「そうなんだ」とミコちゃんは、ちらっとあたしを見る。

「儀式は大丈夫だと思うよ。彼女、やる気だよ」


 グッジョブと親指を立てると、ミコちゃんが笑う。その笑顔に、ノゾムくんがとろんとした顔をするものだから、ミコちゃんの身が心配になってきた。まだ、カワイイでゆるされるけど、これから大きくなっても、こんなカンジじゃぁ……


 兄弟で争わなければいいけどね……


 あたしの心配をよそに、ノゾムくんはニコニコして、ミコちゃんを見上げているし、ミコちゃんはミコちゃんで、愛想よく笑っている。


 精霊が動いて、カチャリと装飾品がゆれる音がした。精霊が見ているほうに顔を向けると、ケイゾーが顔を真っ赤にしながら、ダッシュでこっちへやって来ているところだった。


 抱えられているよし子も、体が上下に大きく揺れている。

 でも、頭はまったく動いていない。

 ぴたっと前を見すえる姿に威厳がある。きりっとした目がかっこいい。


 よし子、たのむぞ。


 たのもしい姿に自分にも気合を入れる。ミコちゃんをめぐる争いも、儀式が失敗すれば、全部なくなってしまう。まだ危機感がうすくて、実感がわかないけど、地球の未来はあたしたちにかかってるんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る