第27話 ミコちゃんのお母さん 1
それぞれのバケツに半分ほどの水を入れると、小屋の前まで運んだ。
最初は、満杯に入れていたけど、それだと歩いたときに水がはねて、服がぬれてしまったんだ。ミコちゃんが、半分だけ入れて、あとはジョウロでたせばいいんじゃない、とかしこいことを言ったので、まずは半分だけ運ぶことになった。
バケツを置くと、あたしはケイゾーがいるほうに、ふり返った。
「ジョウロに水、くんできて」
「あんずが自分でやればいいじゃんかよ」
文句がすぐに返ってきたけど、ケイゾーはくるりと背を向けると、走ってミコちゃんの家まで戻った。それから、そう時間がかからずにケイゾーは帰ってきたけど、手には何も持っていなかった。
「ジョウロは?」とあたし。
ミコちゃんが「分からなかったの?」と気づかう。
そんなはずはない。バケツに水を入れるときに、蛇口のうしろのたなに、ひっかけてあるのを見てるんだから。あの、どこで売ってたんだろうって思うような、この辺では見かけない、深緑で独特の曲がり具合のシャレたやつを。
あたしたちの顔を見たケイゾーは、ふてくされた表情でポケットに手をつっこんだ。
「おばさんが水やり始めてたから。こそっとのぞいただけで、戻ってきた」
声かけようかとも、思ったんだけど、とぼやいたけど、顔はそんなことはしたくなかったといっている。
「ミコちゃん、今、何時?」
ミコちゃんはすぐにポケットからスマホを取り出した。
「ちょうど五時ぴったり。あと少ししかないよ」
焦るミコちゃんに、ケイゾーがのんびりした声を出す。
「まぁ、ボヤならバケツ半分の水でも十分だろうし、もっとひどかったら、水かけたってムダなんじゃねーの」
「消し止めようって気はないわけ?」
思わず声が大きくなった。ケイゾーはびっくりした顔をする。
「そうムキになるなよ。やばくなったら逃げたほうがいいと思うな」
たしかに、そうだけど。
でも、半分だけ入ったバケツの水を見ていると、こんな中途ハンパじゃダメだって気分になってきた。
せっかく『よげんの書』が教えてくれたんだから、火を消し止めなくちゃ。
だから、ミコちゃんに「ジョウロ、とってくる」と伝えて、彼女のうちまで走って戻った。ケイゾーの横を通りすぎたときに、なにか言われたけど、立ち止まる気にはなれなくて、そのまま通り過ぎる。
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