奇妙な三角関係

第20話 アオサカ堂 1

「ケイゾーは?」とあたしの到着に、お堂から顔を出したミコちゃんにたずねる。

 自転車のカゴから本の入った手さげ袋をつかんでいると、「まだぁ」という返事があった。


 ミコちゃんはお堂からそう遠くないところに住んでいるから、歩いてきたらしい。自転車は見当たらなかった。あの白くてシャレた自転車。フランスの風が吹くとかなんとか、お姉ちゃんが見たときに言っていたやつだ。


 お堂の中に入ると、ミコちゃんの足もとに、プラスチックのバスケットが置いてあるに気づいた。大きめで、これをさげてくるのは重かったんじゃないかな。


「ジュースとお菓子を持ってきたの」


 視線に気づいたミコちゃんは、しゃがんでバスケットのフタを開けると、中からペットボトルのオレンジジュースを一本取り出した。小型のやつで、同じ大きさのボトルが、まだ二本入っているのが見えた。あと、チョコバーらしきパッケージも。


「飲む?」

「ありがと」


 遠慮なくジュースをごくごく飲んでいると、ケイゾーがハンドルがまっすぐになっているマウンテンバイクに乗って、こっちに走ってくるのが見えた。


 ケイゾーも兄弟がいるけど、あたしとはちがって、小二の弟がいるだけだ。だから自転車もピカピカ。ゴミ捨て場から拾ってきたような、あたしのオンボロ号とは見比べる価値もない。


 ケイゾーも、あたしたちがわかったらしく、片手をあげてふる。あたしはペットボトルを口にくわえたまま、じっとしていたけど、ミコちゃんはちょこっとだけ手をあげて、ふり返していた。ケイゾーは立ちこぎになって、あっというまに到着する。


「あ、なに飲んでんだよ」


 あたしを見て、ケイゾーがいたずらしているのを発見したみたいな声を出す。あたしは、見ればわかるだろって思って答えなかったけど、ミコちゃんはすぐさまバスケットを開けて、ペットボトルを取りだした。


「はい」

「サンキュー」


 かいがいしいのぅ、と横目で二人を見ながら思う。


 ミコちゃんはケイゾーが飲み始めるのを待ってから、自分もペットボトルのフタをひねった。こくこくと可愛らしく、二口飲むと、軽く口を拭って、それからバスケットに手を入れる。


 やっぱりチョコバーだった。それとスナック菓子も。

 三人でもぐもぐ、ごくごくしながら、ぼんやり時間がたつのを待った。


 燃えるって、よげんされた小屋は、アオサカ堂から百メートルほど、はなれた場所にある。田んぼと田んぼのあいだにできた場所にあって、トタン屋根とひび割れた板を組み合わせてつくった、アオサカ堂と同じくらいの大きさの建物だ。


 小高い場所にあるお堂からだと、さびたトタン屋根がよく見える。まだ穴はあいていないようだけど、いつあいてもおかしくない。お姉ちゃんが低学年の頃には、学校に行くときの集合場所になっていたらしい。でも、最近は古くなって崩れそうだからって理由で、子供は立ち寄らないように、うるさく言われている。

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