第14話 新しい、よげん

「えっ」


ケイゾーは閉じかけていたページをあわてて開く。


〈アオサカ堂の近くにある小屋が燃える〉


 ぎょっとしたケイゾーがあたしたちを見ているのがわかったけど、こっちだってページから目をはなせなかった。赤い文字が、すっと消えたかと思うと、また別の文字が現れる。


〈夕方、五時二十分。近づくな〉


 〈な〉の文字が書かれたと思った瞬間には、全部の文字が消えた。


「な、なんだよ、これ!」


 ケイゾーはページをこすったり、めくって他のページを確認する。それから、バサバサとやぶれるんじゃないかってくらいに、はげしく上下にふるから、あわてて本を取りあげた。


「やめてよ。大事にしなくちゃ」

「気味わりぃ。どうなってんだ」


 ケイゾーはトリックがあるんじゃないかと思ったようだ。あたしとミコちゃんが、何度も「知らないよ。かってに文字が浮かぶんだ」って説明しても、だましてからかってるんだろうと言って、最後には怒り出した。


「だから、あたしたちだって、わからないんだって」

「んなわけ、あるか。先生にチクるぞ」

「はっ、ヒキョー者」


 ケイゾーも先生を出してしまったのは、まずかったと思ったにちがいない。赤い顔をして、だまりこむ。そのあいだにミコちゃんが、図書室で見つけたこと、きのうはトモダ先生にキケンがせまっていると、ページに書かれたことを話した。


「あたしたちだって、きのう見つけたばっかりなんだよ」

「そうだよ。文字が書かれたのも、今回でまだ二回目なの」


 ケイゾーは腕組みしてあごをぐっとひいた。

 またカッコつけたポーズだなとは思ったものの、真剣な顔なので、今回はそう腹は立たなかった。しばらくして、彼は口を開いた。


「じゃあ、今度は小屋が燃えるってことか?」


 ケイゾーの声は落ちついていた。どうやら信じる気になったようだ。マジメな顔で、冗談だとはもう思っていないらしい。そんな姿を見て、あたしは自分のまわりの空気がひんやりしてきたように感じた。


「でも、まだ……わかんないけど」


 半笑いになってしまう。

『よげんの書』をしまうと、わざと大きな音を立てて、ぱんぱんと袋を叩いた。


「先生にボールがぶつかったのは、ぐうぜんかもしれないし」

「でも、字が浮かんで消えただろ。おれ、見たぜ」

「それだけじゃん」


 ケイゾーはあきれたように顔をゆがめてこっちを見る。ミコちゃんも心配げに、こっちをうかがっていた。あたしの口からは乾いた笑いがこぼれる。


「だってさ、意味わかんないもん。もう忘れたほうがいいよ」


 自分で言いながら、変なこと言ってるなって、わかっていた。

 でも、ケイゾーまで信じてる。

 そう思うと、これは本当に起こってることなんだって、あせりと不安でいっぱいになってきたんだ。

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