第12話 トモダ先生の悲劇


 やっとお昼休みになった。


 図書室に行こうかって、ミコちゃんと話していると、廊下の向こうから、トモダ先生が歩いてくるのが見えた。ピシッと背筋を伸ばしていて、顔はいつものように怖い。あんまり笑わない先生だ。周りにいる子が自然と道をあける。


 あたしとミコちゃんは教室を出たばかりで、『よげんの書』を入れた、手さげ袋をあたしは持っていた。


 コーンフレークについている応募券を集めてもらった、応募者全員サービスの手さげ袋だ。ニワトリの絵がでかでかと描いてあって ちょっと目つきが悪い感じが気にいってたんだけど、『よげんの書』が入っているかと思うと、とたんにかわいさも半減する。


 ミコちゃんもトオダ先生に気づいた。

 ちょっと先生を見つめたあと、あたしの左うでにさわる。


「ね、わたし、あぶないって言ってこようか」

「やめたほうがいいって。からかってるって、思われるだけだよ」

「でも」


 そう、ミコちゃんが迷っていたときだ。


「あっ!」

「え?」


 開いていた窓から、ポーンとサッカーボールが飛んできた。

 それが、ぼかり。

 前だけ見て歩いていたトモダ先生の頭にぶつかる。


「あちゃっ!」

「うわっ」


 ボールは先生の頭ではねると、仕事はおえたって感じで、廊下をゴロゴロと気ままに転がっていく。


 あたしたちは目を見合わせると、二人してかたまってしまった。

 トモダ先生も、びっくりしたのか痛かったのか、ボーリングのピンみたいに立って動かない。


「大丈夫、先生」


 周りにいた子たちが声をかける。

 それに反応したのか、両手で頭を押さえた先生は、目を真ん丸にする。


「だ、だれですか!」


 大きな声。耳がキーンとした。

 トモダ先生はつかつかと窓に近づくと、頭を外につき出した。

 下に向かって、もう一度「だれですか!」と大声。


 あたしとミコちゃんも、急いで窓にかけよる。下を見たけど、誰もいなくて、遠くのグランドのすみに、遊んでいる低学年の子がいるだけだった。たぶん、もう逃げたんじゃないかな。それとも……


「ボールだけ、飛んできたってことはないよね」

「だれかが、けったんだよ」


 ミコちゃんはぎゅっと口をすぼめる。視線をあたしの顔から手さげ袋へと移動させた。袋かわいいねって視線じゃないのは、わかっている。あたしだって怖くなってきて、袋ごと本をどこかに捨てたくなってきていた。


 そりゃね、ただボールがぶつかっただけだよ。キケンって程でもないんじゃないって思うかもしれない。


 でもさ、自分が今、手にもっている本が本当によげんしたんだって、そう証明されたってことでしょ。目の前でさ。そうなると、さすがに怖くなるよ。


 さっきまでの、ワクワクゾクゾクしていた気持ちは、先生の頭にサッカーボールがぶつかた瞬間に、すうっと体からぬけてしまった。かわりに足もとから、ガクガクと震えてしまいそうな不気味な感触が、ぶわりと、はいのぼってきたんだよ。

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