初夏のいたづら
紀堂紗葉
初夏のいたづら
「転校?!」
友達四人で学校の昼休みに廊下でおしゃべりしている時、私は思い切って打ち明けた。
急に決まった転校。
友達はとても悲しがってくれた。
せっかくできた友達だから、私も辛いけど、そう思ってくれるのは嬉しかった。
みんなの反応が大きかったので、廊下中に響いた。
私は少し恥ずかしくなり、廊下をきょろきょろと見回す。
すると、私達の前を隣のクラスの男子グループが通りかかった。
あ、目が合った。
一瞬だけ。いつもほんの一瞬だけ目が合う。
私が一目惚れした男の子。
彼との関係はいつもこんな感じ。
目が合ったと思ったら、それはたまたま視線が合っただけ―――そんな意味を込めたようにすぐに視線を反らす。
私もそうしている。
彼がそうするなら私もそうする。
入学式の日の朝、無人駅のホームで彼を見た。
朝早い電車を待っていたのは、私と彼しかいなかった。
ここに引っ越してきてから初めて会った同じ歳の男の子に私は一目惚れをした。
すらっとしていて優しそうな顔。
一目惚れなんてしないと思ってたけどね。
彼とは一度も話したことがない。
成績は優秀で万年上位。
家業は花火師と聞いたことがある。
めずらしいよね。
あの日から一年ちょっとが過ぎたけど、私達の距離は何も変わっていない。
目が合うということは、私のことを見てくれているっていうことかな……?
目が合う度にそんなことを思ってしまう。
でもそんな日々も、あと十日で終わる。
彼と離れてしまう。
この街はすごく気に入っている。
学校の近くにひまわりが自生している丘がある。
そこには無数のひまわりが人の手が入ることなく一面に咲き誇る。
楽しみにしていたんだけど……まだ七月に入ったばかり。
いつも着けているひまわりの髪飾りで我慢しよう。
駅に着いた時にはもう暗くなっていた。
でもそこには友達の明るい顔があった。
電車が来た。
たった一両の電車。
車両に乗り、扉が閉まる。
席に着ついて、急いで窓を開ける。
元気でねって声をかけてくれた。
運転手さんが来た。
ちょっとしたエラーが出たらしく、五分くらい遅れると言われた。
まだ話せるね、なんて言いながら友達と笑いあう。
――――――パァン!
どこかで何かが爆発したような音が鳴った。
花火?
この時期にあったかな?
夏祭りまでないよね。
ねえねえ、あっちの方で煙りが上がってるよ。
それは友達がいるホームとは反対側の方角だった。
私は急いで反対側の座席に移動し、窓の外を見た。
心がざわめく。
祭りの時しか上がらないはずの花火。
もしかして―――心臓の鼓動が大きくなる。早くなる。
あっ。
地面に近いところで火花が見えた。
すると、地面より少し高いところで小さな緑の花火が二つ上がった。
それが消えると同時に、一本の光の筋が空を駆け上がっていく。
強めの光を放って一度消えた。
すると次の瞬間、空に黄色い花が咲いた。
私はそれを見て、涙が溢れてきた。
ひまわり―――私にはそう見えた。
私は髪留めを手に持って、大切に抱きしめた。
初夏のいたづら 紀堂紗葉 @kidou_suzuha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます