振り返ればあの時ヤれたかも

赤城クロ

プロローグ

時の魔女は物語を求める

 始めに言っておく、儂は変態ではない。

 故に。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ、今見ないで下さい! 今私は全裸なんで!」

 「み、見とらんわ! は、早く着替えよバカ者が!」

 「わ、分かりましたからあっち向いて下さい! ちょっと体見られるのは恥ずかしいので!」


 この美青年の裸を見たくて、この浴槽での着替えシーンを狙い、ワープしたのではない。

 儂は時空魔法の力を貸すべく、此奴の側にいるだけだ。

 儂は魔女だ。


 「ば、バカモノ! き、貴様の綺麗な胸板とか、程よく割れた腹筋とか、見るきなどないから、早く服を着ろ!」

 「や、やっぱり見てるじゃないですか、魔女様! 見ないで下さいよ、は、恥ずかしいですから!」

 「は、恥ずかしいのはこっちじゃ! 女子に裸を見せて……フヒ、何を考えておる!」


 なので。決して美青年大好きお姉さんではない。

 儂は時を操る魔女だ。


 「そう言いつつも魔女様、鼻血出てますよね! 明らかに今、鼻を伝って床に血がポタポタ落ちてますからね! 絶対僕の裸を見て、興奮してしまったんですよね!」


 断じて、この美青年の裸に興奮して鼻血を出したわけではない!

 当然「その腕で抱擁されたい」とか「アル君の腹筋をじっくり触りたい」なんて考えていない!

 絶対ない!


 「ち、違うわ! これは転送する前に、近所のガキに石を投げられてだな!」

 「近所って周りは森じゃないですか、魔女様の家の近辺は!」

 「うわぁぁぁぁぁぁん! いたんじゃもん! 近所のガキがいたんじゃもん!」

 「うわぁぁぁぁぁぁ、魔女様、こっち見ないで! 僕を揺らさないで!」


 …………。


 おほん、儂は時の魔女。

 過去を自由に変える力まで持つ、最強と言われる魔女。

 同時に物語を愛する魔女でもある。

 「……故に儂は、この美青年の王子が過去をやり直す事で、物語がどの様に面白可笑しく変わるのか? そんな興味に駆られた儂は、王子に力を貸し、共に時間旅行の旅をするのであった、まる……」

 「そんな言い訳言っても、覗きをしていた事実は変わりませんよ。 それに、鼻にティッシュを詰めて言ってる時点で説得力がありませんからね」

 「う〜、そう言わんでくれ……。 反省しとるから……」

 「はいはい、分かりましたから寝ていて下さいね……。 何か貧血に効きそうな食べ物がないか探してきますよ」


 儂は時の魔女。

 今、城の浴槽の着替え場から王子の部屋のベットの上へ王子に運んでもらい、体を休めている。

 それは、鼻血を出しすぎて貧血を起こした故……。

 ここは一ヶ月前の過去、その事実を知るのは3人だけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る