第4話

 ―ヒューマノイド。

 世界中の科学者達が能力を結集し造られた、人型戦闘用ロボットだ。

 現在、兵士達はヒューマノイドに乗って、ナイトメアと戦っている。



 ― 同日、21時。


 日本には、この国を守る『姫巫女』を筆頭に、『朱雀』、『青龍』、『白虎』、『玄武』の四神から加護を授かった5人の巫女達がいる。

 そのうちの一人、『朱雀』から加護を授かった、通称『赤の巫女』こと『火月紅ひづきこう』はヘリコプターの中からぼんやりと外を眺めていた。

「どうしました?司令。なんだかボンヤリとしていますが」

 こうの隣に座っている男性……副司令の羽山はやまが声をかける。

「あぁ……別に。なんでもない」

 ぼんやりと外を眺めたまま、こうは返答した。

 そこへピピっと小さな音で、現場からの入電が入る。

 「はい。こちらSAT。」

 羽山はやまが通信を取った。

 「SAT」とは「スーパーエージェントチーム」の略称で、名前の通り選りすぐりのパイロットが集められた、特別班だ。

 『こちらA班の山吹やまぶきです!今から約10分前に、大型で飛行タイプのナイトメアが二匹出現、A班からC班まで負傷者多数!あと何分程で現場に到着されますか?』

 「現場まであと何分ほどで到着出来る?」

 羽山はヘリを操作しているパイロットに声をかけた。

 「そうですね……最低でもあと45分ほどになります。」

 パイロットの言葉に、羽山が眉間に皺を寄せる。

 「現場まで最低45分はかかるそうだ。」

 『45分?!……厳しいですね……。』

 その言葉に、こうが羽山に向き直った。

 「私が先に出る。私だけなら15分程で到着出来るはずだ。A班からC班は、戦闘ラインGまで下がるように伝えてくれ。」

 「わかりました。……聞こえましたか?今からウチの司令がそちらに向かいます。15分程かかりますが、その間にAからC班はラインGまで下げておいてください。」

 『了解しました!ありがとうございます。』

 ピッと軽い音が鳴り、現場との通信が切れる。こうは立ち上がると、コートと軍帽を脱ぎすて、インカムをセットし直し、ヘリのドアに手をかけた。

 「とりあえず私は先に出るが、後続の輸送機は絶対に落とさせるな。輸送機には医者や看護師が乗っている。何がなんでも死守しろ。現場付近に到着したら、安全な場所を探して輸送機を降ろせ。」

 「了解。」

 「あとは任せた。……行ってくる。」

 こうはガラリとヘリの扉を開き、躊躇ちゅうちょせずに飛び降り、あっという間に闇に消えていった。そして数メートル先でボッと炎が上がる。炎が急速に飛んでいくのを確認し、羽山はヘリのドアを閉めた。

 


 ヘリから飛び出し、炎の翼で急加速しながら飛んでいくと、森の遠くに明るい場所が見えた。

「あそこか」

 明るい場所に目掛けて、更に加速する。数分で現場に近付くと、軍用ヘリが数台、地上に向けてライトを照らしながらウロウロと飛んでいた。ナイトメアに向かって攻撃をしたいのだろうが、まだナイトメアの近くに兵士達がいる為、攻撃出来ずにいるのだろう。

 もう少し現場に近付いてみると、50メートル程の大型のナイトメアが飛びながら地上の兵士達を攻撃していた。地上班からの攻撃が届かない絶妙な位置でビームを吐いたり、針を飛ばしている。

「……トンボと蜂か。昆虫類は苦手なんだよなぁ」

 こうは虫が苦手である。むしろ嫌いと行ってもいい。

 だが、行きたくないなぁと思っている間にも、負傷者が増え続けている。

「……とっとと終わらせるか」

 げんなりとした表情で、まずはトンボ型に狙いを定める。広範囲にビームを撃つので、地上班から負傷兵が多く出ていた。

 トンボ型の頭に狙いを定めると、スピードをあげて急降下していく。降下中に刀を抜き、頭に着地するとともに刀を突き立てた。突き立てた場所に何かゴツゴツとした硬い物があるのを刀から感じ取る。

「ここか」

 ゴツゴツした物はおそらくコアだろう。

「砕けろぉぉぉぉ!」

 更に刀を深く突き立て、炎の羽の力を借り、そのまま猛スピードで地面へと叩きつける。

 ズドーンと大きな音と共に、土埃が舞い散った。パキンとコアが砕ける感覚が刀から伝わってくる。

「ギィィィィィィ!!!」

 トンボ型のナイトメアが悲鳴のような声を上げながら、ちりとなって霧散むさんした。

「あとはあの蜂か」

 ハァァァ……と溜息をついていると、いつの間にか周りがザワザワとしている。

「巫女様だ……!皆!!赤の巫女様が来て下さったぞ!!!」

 兵士達の嬉しそうな声に、現場に活気が戻ってくる。

 虫が嫌だなどと言っている場合ではない。

「蜂型のナイトメアは私が担当する。手の空いている者は中型以下のナイトメアを撃墜げきついしてくれ」

 その言葉に、いそいそと兵士達が動き出した。こうは頭上の蜂型を見上げると、また深く溜息をついた。そして跳躍ちょうやくすると、蜂型のナイトメアを一刀両断いっとうりょうだんする。

 きれいに半分にされたナイトメアが地上に落ちていき、地面の上でジタバタと藻掻もがいている。頭の左側に赤く光るコアを見つけると、紅は刀で切りつけようとしたが、半分にされたナイトメアが暴れてなかなかコアに近付けない。そこで、頭と胴体を切り落とし、胴体は暴れまわているものの、静かになった頭のコアにもう一度刀を突き立てる。

 パキンと音がして、蜂型のナイトメアも塵となっていく。わぁわぁと周りから歓声が上がり、紅はふぅと息を吐き出した。その時、ピピッとインカムから小さな音がして、紅はインカムの音声スイッチを入れた。

『お疲れ様です。後続機を安全な場所に降ろしました。医師達には重体の者から治療して頂くよう、伝えてあります。我々も出動の準備は整っております。いかがなされますか?』

「ご苦労。大型は倒したが、中型のナイトメアもまだ多くいる。これより、班のパイロットを全員出撃させろ」

『了解』

 ピッと羽山からの交信を切り、インカムのチャンネルを変更する。

「A班からC班へ。SATの火月だ。これより我々が戦闘に介入かいにゅうする。各班は重傷者を優先して非難させろ。手が空いている者は負傷者に手を貸せ」

『A班了解』

『B班了解』

『C班了解』

 紅の言葉に、各班から応答が来る。紅はまたインカムのチャンネルを戻し、刀を抜いて走り出した。

 まずは中型の中でも大きいサイズのナイトメアを刀一つで切り付けていく。しかし、向かって来るのは虫、むし、ムシ……。

「なんで虫型ばかり現れるんだ!!今日は厄日かっ!!」

 ナイトメアが周りに集まってくると、こうは刀を地面に突き刺した。

「炎よ。敵を焼き尽くせ」

 地面が盛り上がり、ひび割れていく。そのひびから炎の柱が立ち上がり、ナイトメアを焼いていった。

 「次!」

 少し大きめのカマキリ型をしたナイトメアが襲い掛かってくる。右のカマを刀で受け、振り払う。それと同時にナイトメアの左のカマがこうのわき腹をえぐった。

「っ……」

カマキリ型と交戦している間に、小型のナイトメアが集まってくる。飛んだり跳ねたりとバラバラに体当たりやら、引っかいたりと邪魔をしてくる。そのうちの何匹かが顔を狙って飛んできた。避けようと体をひねると、ナイトメアの爪が左の頬をかする。

「あ~もう!!めんどくさいっ」

 カマキリ型の攻撃を避けると、また刀を地面に突き立てる。

「燃えろ」

 地面から火柱が立ち上がる。小型のナイトメアは炎に焼かれてちりとなった。無論むろん

カマキリ型も巻き添えをくって、汚い悲鳴をあげる。

 カマキリ型がちりになった事を確認し、こうはまた走り出した。刀に炎をまとわせて、ナイトメア達を切り裂いていく。

 ふいに地面が揺れだした。

「?なんだ?」

 こうが辺りを見回していると、足元の地面が割れて盛り上がっていく。割れ目を避けて後ろへ飛ぶと、土埃をあげながら地面の中から大きなミミズが頭を出した。

「わ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 予想外の虫型に、こうが悲鳴をあげる。そしてきびすをかえすとフルダッシュで走り出した。ミミズ型がうねうねとこうを追ってくる。

「羽山ァ!!!羽山はどこだーーー!!!」

 ギャアギャアと悲鳴を上げながら走っているこうに羽山が応答する。

『どうしました?レーダーを見る限り、かなり速い速度で走っているようですが』

「ミ……ミミズ!!!7メートルくらいの巨大ミミズが!!!……ちょっ!!寄るなー!!こっちにくるなぁぁぁぁぁ!!!」

 どうやら巨大ミミズが出現して、こうが追われている事がわかった。

「羽山ぁぁぁぁ!!助けてくれ!!さすがにミミズは無理だぁぁぁぁ!!」

 本当に虫が嫌いなんだなぁと思いながら、レーダーに移るこうのポイントへと向かう。その間にもインカムからこうの悲鳴が聞こえてくる。

「ぎゃー!!!増えてるーー!!!なんか付いてくる虫が増えてるぅぅぅぅぅ!!!」

 このインカムの内容が他の班に聞こえてなくて良かったと羽山は溜息をついた。こんな内容の音声が全員に聞こえていたら「巫女様」のイメージダウンに繋がってしまうだろうと思いながら、こうのいるポイントへ到着した。

『あー……確かに大きいですね。このミミズ型、中型から大型へ変化する手前かと思われます』

「そんな冷静な感想は要らん!!!早く何とかしてくれ」

 羽山は背中に背負っていた、ガトリング砲をセットする。

『ちょっと耳を塞いでいてくださいね』

 そう言うと、ミミズに狙いを定め、ガトリング砲を撃ちだした。大きな音を立てながらミミズ型に弾を撃ち込んでいると、小さく光る赤いコアが見えた。羽山は冷静に軌道修正し、コアのある部分へ弾を浴びせる。しばらく撃ち込んでいると、パキンとコアが割れた。

 巨大ミミズが動きを止め、塵になっていく。

「ありがとう羽山ぁ~」

 半ベソをかきながら、こうはヘタリと座り込む。

『まだ幼虫やらなんやらが追って来てますね。こちらも処理しておきますので、大佐殿は別の……』

 と羽山が言い切る前に、インカムから別の悲鳴が聞こえた。

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 その悲鳴にこうが反応する。

「どうした斎藤?!」

『ゴ……ゴキ……2メートルくらいのゴキが……!すみません!俺、ゴキブリが苦手でして……』

「わかった!羽山は後を頼む!斎藤、今行くから待っていろ!」

『虫はダメなのに、何故ゴキブリはいいんです?』

 羽山の言葉に、紅がフンと鼻を鳴らす。

「だってゴキブリは第一級討伐対象だろ?日常でも」

『……なるほど……?なんとなくわかりました。大佐殿はゴキブリの殲滅せんめつをお願いします』

「任せろ」

 そう言うと、こうは超高速で走り去った。

 しばらく走っていると、ゴキブリに追われているヒューマノイドに出会う。こうはすかさず刀を抜いて、ゴキブリを切り付けた。

 サァとゴキブリが塵になり、空へ舞い上がる。

「斎藤!大丈夫だったか?」

『大佐殿!ありがとうございます!本当に助かりました』

 斎藤機が追い縋るように膝をついた。

「いや、まだわからないぞ?ヤツを見かけたら既に100匹いると言われているからな」

『大佐殿!そんなフラグの立つような……』

 斎藤の声をさえぎり、近くの茂みがガサガサと音を立て、30cm程のゴキブリが大量に湧き出してきた。

『うわぁぁぁぁ!だから言ったじゃないですか大佐~!!!』

「おー……これはまた大量だなぁ」

『俺、他の討伐に行ってきます!』

 と斎藤は逃げるように去って行った。

 ワラワラと出てくる小型のゴキブリをみながら、こうは溜息をつく。小さすぎていちいち切っていくのがとても面倒だった。

「羽山~。ロードローラーとか無いかなぁ?」

『なんですかいきなり。工事に使うような機体はありませんよ』

「いや……小さいのを切っていくのが面倒でさ。ロードローラーがあったら一気に潰せるなぁと」

『……貴女の場合は焼いた方が早いと思いますが』

「ん~……やっぱそうだよなぁ。燃やすわ。」

『そうしてください』

 羽山に言われた通り、集まった小型のゴキブリを次々に焼いていく。数分後には茂みから出てくるゴキブリはいなくなった。


 どれほど切ったかわからない頃、ナイトメア達が撤退を始めた。

 ピピッとインカムが鳴り、こうは音声スイッチを入れた。

「どうした」

『敵が撤退を始めました。追いますか?それとも撤収しますか?』

「残りももう少ないだろう。あとは任せて、我々は撤収する」

『了解。それでは撤収の準備に入ります。お迎えは必要ですか?』

 羽山の言葉に、こうはフルフルと首を振った。

「大丈夫だ。迎えは必要無い。とりあえず撤収準備を始めてくれ」

『了解』

 羽山と交信を終了し、こうはグッと体を伸ばす。刀を鞘に納め、SATのヘリがあるポイントまで歩き始めた。

 結局、本部に帰り着いたのは午前4時頃。うっすらと外が明るくなっていた。



 のちに今回の討伐は三本指に入るほど、精神的に辛かったとこうは語った。


 ついでに後日、大きなコロコロのようなロードローラー的な武器が開発された。小型のナイトメアはローラーで広範囲に潰せるし、振れば中型のナイトメアくらい叩けるハンマーとして使えると、現場では好評だった。

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