Asterisk

いある

Prologue―転移

 死にたいと本気で思ったことがある人間はこの世界にどれくらいいるのだろうか。街を歩けば、ネットを開けば当たり前のように『死にたい』なんて垂れ流している連中ばかりだ。

 だがそのうちの何人が心から死にたいと思った?

 自ら人生に幕を下ろしたいと本気で願った?

 命というものの重さを理解してそれでもなお手放そうと考えた?


 …所詮人間とは口だけだ。うちの親だってそうだった。気紛れに子供を作って、いざ作ってみたら躾がめんどくさいだの金がかかるなどといって簡単に捨てやがった。

 信頼するという権利すら失われた俺にこの世界は何を強いるのだろうか。

 君は一人じゃない、なんてのたまっておきながら結局はRPGの村人の様に同じようなことを誰もが繰り返す始末。

 挙句の果てには面倒くさいと匙を投げ、頼らなかったらどうして声をかけてくれなかったのだと涙を流す。端的にいって自己満足と自己陶酔による偽善だ。

 なんやこいつら、である。結局は手を差し伸べて自分はいいことをした、という事実が欲しいだけではないか。反吐が出る。

 この世界は実に汚れ過ぎた。昔の恩師に話をしてみたが、ヤニ臭い息とともに返ってきたのは『諦めんな』なんていう何百回と気持ち悪くなるまで聞いたチープな言葉だった。諦めてたらもう死んでるっつーの。


 そうして俺が諦めるのに至ったわけは…いや、もういい。

 折角死ねるってのにこんなつまんねーことばっか考えてるのは建設的じゃない。

 そんなことはとっくに分かり切ってるはずだ。ゴミみたいな人生だったがせめて最後の十秒くらいはもっとマシなこと考えよう。

 そう、例えば―――



     『本当に信頼できるヤツと出会ってみたい』とかな。

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