第二章 反対派
第二章 1
ティモシー・フィッシャーは、ブルックリン中心部のイースト・フラットブッシュにある古いアパートの狭い一室で、七歳になる娘のマーガレットと、四歳になる息子のアンドリューがホログラフィックボードゲームに興じているのを見守りながら、心中で巻き起こっている理性と本能の決闘を注視していた。彼の中で、一家の未来を決する戦いが始まった。
心の中で、理性が本能の足を払い、優位に立つ。
子供たちに、満足な教育環境を与えてやりたい。余計なことはせず、黙々と仕事をこなして、金を稼ぐべきだ。
心の中で、本能が素早く立ち上がり、理性の
だが、アンドロイドが人権を得てしまったらどうするんだ。俺は職を失うかもしれないんだぞ。子供たちに苦労をさせてしまう。
心の中で、理性が全力で殴り返す。強烈な一撃が、本能の顎に入った。
職を失うと決まったわけではない。それに、デモ活動なんかしてみろ。厄介ごとに巻き込まれて逮捕なんかされたら、全てを失うかもしれない。そんな危ない橋など渡れるか。
心の中で、本能が理性の足元にタックルをした。理性は後頭部を地面に叩きつけられ、腹を見せる形となった。本能はその隙を見逃さず馬乗りになって、何度も何度も理性の顔を殴りつける。
いや、黙ってはいられない。事態は思っている以上に
心の中で、本能から殴られ続けていた理性が、ついに気絶した。
ティモシーは歯を食いしばり、決意した。
やらなければならない。誰かが立ち上がるのを待ってはいられない。俺が、やらなければならない。杞憂だったと笑いながら、子供が立派に独り立ちしていくのを見送りたかったが、その願いはアンドロイドに潰されてしまうだろう。アンドロイドが、俺たちの生活を奪っていく。子供たちの未来までも奪っていく。無感情に、容赦なく。だから、黙ってはいられない。黙り込むことは許されない。愛する子供の未来のために、俺は連中と戦わなくてはならない。
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