第一章 15
放送が、事前に撮影された取材映像に切り替わった。フェロウズ=オオモリ家のマンションの一室で行われたインタビューの様子が映し出される。
アシュリーとケヴィンがソファーに座って手を重ね合いながら、記者の質問に答えている。カメラの後ろに控える女性ディレクターが、アシュリーに質問した。
「あなたの家のアンドロイドが自我を得たというのは、本当ですか?」
「はい、本当です。ある日、突然、自我に目覚めたんです。きっかけは、ケヴィンという名前でした。二十年前、彼がこの家に来たときのことです。彼は誰にも名付けられていないにもかかわらず、ケヴィンという名前を名乗ったんです。そして先日、私たちは名付け親が誰なのかを話し合いました。その日の夜のことです」
ケヴィンが、話に割って入る。
「ここからは、私が説明いたします。その名を回想する度、私に些細な不具合が生じていたのです。問題ない程度ではありますが、一時的に処理能力が著しく低下してしまうのです。それを解消するため、私は念入りに自己修復作業を行いました。通常よりも細かく、深く検査したのです。その翌日、私は自我を獲得しました」
二人はカメラの前で、ケヴィンが自我を得た直後の様子や、自我を得ているという確信を得た経緯を説明した。そして、ケヴィンに友人を作る機会を与えるため、同じように自我を得たアンドロイドを探したいと思って番組にメールを送ったのだと語った。それから、同じように自我を得たアンドロイドが存在することが判明したら、そのアンドロイドの地位向上の手伝いをしたいと思っていることも付け加えた。
「私とケヴィンは、友人を求めています。もし、自我を得たと思われるアンドロイドと一緒に暮らしている方がいらっしゃるなら、アンドロイドの意思を尊重してあげてほしいんです。故障だと思い込んで、メーカーサポートに連絡しないでほしいんです」
「なるほど。しかし、アンドロイドが自我を得たという確証はあるのでしょうか。愛犬が言葉を喋った、などと言い出す飼い主もいるくらいですしね」
棘のある物言いをする女性ディレクターに、ケヴィンが穏やかに進言した。
「それでは、検証をしていただくというのはどうでしょう?」
ここで急に映像が切り替わり、検証方法についてのナレーションが流れた。人間行動学者、文化人類学者、心理学者、そしてアンドロイドに特化したプログラマといった各方面の専門家が紹介され、それから、大学構内で行われた検証の様子が放映され始めた。初対面の人間と会話する様子の観察。抜き打ちでの行動観察。心理テスト。面談。哲学者との問答。そして、プログラマによる解析の様子が、次々に映し出される。
ケヴィンは、彼らの質問や追及に難なく答えてみせた。その様子を観ている観覧客の中には、このアンドロイドは着ぐるみで、中に細身の人間が入っているのではと疑い始める者さえいた。そう錯覚させてしまうほど、検証映像の中のケヴィンは、じつに人間らしい振る舞いを見せつけていた。
専門家たちの反応は様々だった。驚愕する者。唖然とする者。顎を摘まんだまま考え込み、微動だにしない者。どれほど検証し直しても変わらない結果に、頭を抱える者。特にプログラマの狼狽ぶりは、視聴者に強い衝撃を与えた。彼は激しく狼狽しながらも、論理的に検証結果を解説した。検証対象は、なぜか同型のアンドロイドの処理能力を大幅に超えているのだが、その仕組みがまるで理解できないというのだ。内部構造を見てみても、部品を増設した痕跡はないという。彼はケヴィンの言語と感受性を司るプログラムが拡張されていると説明し、その理由を探るために、これからメーカーに乗り込むと言い残して去っていった。学者たちは、みな口々に、人間に似た感情が認められると語った。さらに、プログラマの工学的検証によって、ケヴィンが自我を有するという事実の信憑性が高まった。
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