眼鏡

 席替えで一番後ろの席になった。

 黒板の文字が見づらい。

 前の席に替わる事もできたけど、隣の席が高橋君だった。


 日曜日に初めて眼鏡を作った。

 赤い丸みを帯びたフレームの眼鏡。

 黒縁眼鏡の方がシンプルで地味な私に調度良いと思ったが、店員さんにおすすめされたからこれにした。


 眼鏡を掛けて初登校。

 ちょっとだけ緊張して、いつもより早い時間に登校した。

 教室後方の引き戸を、ゆっくり引いて教室に入る。

 誰も居ない教室で短く息を吐く。

 自席に座る間際に勢い良く戸が引かれ「一番乗り!」と快活な声が響く。

 高橋君がそこに居た。

「なんだ鈴木が一番か。おはよう!」

「お、おはよう高橋君」

 味気ない短い挨拶。

 中腰のまま、席に着けず下を向く私。

 隣の席に着いた高橋君がまじまじと私の顔を見て言う。

「ふーん眼鏡似合うじゃん」

「そうかな……あ、ありがとう……」

「なんで座んないの?」

 そう言われてやっと着席する。


 高橋君は顔を机に預けて眠り始めた。

 二人だけの教室で高橋君の静かな呼吸音だけが聞こえる。

 店員さんありがとう。黒縁眼鏡にしなくて本当に良かった。

 赤くなった顔が余計に目立ってしまうから。

 火照る顔を冷ましつつ、同級生が来るまでの穏やかな時間を噛み締める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る