最近の妹は超人すぎます。
ほしくい
開幕「妹はお亡くなりに成りました。」
けたたましいサイレンが響く。
嫌な臭いが辺りを包み込み、やがて自らの鼻腔を焦がす。
「なんでだよ……。なんでなんだ!!」
叫ばずにはいられない。
俺はその日、唯一の家族である妹を目の前で失ったのだから……。
黒焦げになって炭化した妹の体は、もはや誰とも認識のしようがない。
それでもだ、妹の体を抱き上げ泣き続けることしか俺には出来なかった。
「君!! 大丈夫か!? 足を怪我したのか、酷いな……。」
夢中で妹を抱き締める俺の足は既に血液すら流れない黒色の塊と成り果てた。
周りが燃え盛る劫火の海、そこに現れたのは消防士だった。
救助者の安否を確認するべく俺に近付く男性に多少の希望を抱いてしまう。
だが、それを赦さない者もいた。
「まだ私の気は済んでないの。外野は引っ込んでてくれる?」
燃え滾る世界の中で澄んだ声が一律する。
俺の目の前に立つ少女は、この異常な光景にそぐわない存在だった。
深紅の瞳は蔑むように俺達を見下ろし、出来過ぎた造形の顔が嫌な笑みを浮かべる。華奢ながら整った肢体に張り付く豊満な胸、括れた腰元、誘ような肉付きの引き締まる下半身、それらが赤と黒のドレスに彩られ、一つの芸術を成していた。
女の細い白魚のような指が1回、パチンと音を鳴らす。
「逃げろ!!!!!」
咄嗟に俺は叫ぶが、悲痛な願いは一瞬で無に帰る。
「なんだ……。―――――!?」
屈強な男性消防士の体は一瞬にして下半身を黒焦げにされた。
おそらく彼の半身は瞬時に炭化したのだろう。生々しい上半身だけが捥げ落ちる。
「――――あぁァァァァァ」
訳も分からないと苦悶の表情を浮かばせ消防士は絶命した。
終始狂人の笑みを浮かばせ殺しを楽しんだ女は再度俺達を探す。
既に俺は動ける足も体力も無い。唯々、妹の亡骸を抱えて片足で這うのみだ。
惨めな俺を嘲笑うように女は叫び散らす。
「アンタがもう少し本気を出してれば私を数秒は止めれたんじゃないの? なのに出し惜しみするから、妹がわざわざ盾になるなんてね。
無我夢中で安全かどうかも分からないコンクリートの柱に身を寄せる。
焦げた足など気にする余裕などない。妹をまだ救えるかもしれないと躍起に思考を働かせることしか今の自分には考えられなかったのだ。
だが、時間切れだ。
「みぃぃつっけたぁ♡」
腹の底に堪えるほどドスの効いた声に絶望しか感じない。
女は嬉しそうに微笑む。その不気味さの正体はすぐに分かった。
「私、こうやって甚振るの好きなの。爪を剥いで、泣き叫ぶのも見たいし、歯を一本一本丁寧に引き抜くのも好き♡ でも今回は一番のお気に入りを試してあげる。光栄に思いなさい。」
指を掲げる女の視線はまだ動かせる俺の右足だった。
「ア゛アァ゛ァァァァァァア゛ア゛ア゛ァァァァ!!!!!!!!」
指が1回鳴ると俺の爪先は消飛んだ。
壮絶な痛みを堪えようと奥歯を噛締め耐える。だが次の2回目が鳴る。
「グォォォァァァッ―――――――!!!!!!」
「いいね! まだ足の付け根を焼いただけだし、簡単に死なれたら困るよ。ほら次は
3回目が鳴る。足首が焦げ落ちた。
4回目が鳴る。脛から骨が剥き出す。
5回目が鳴る。膝が無くなった。
6回目が鳴る。股に激痛が走る。
7回目が鳴る。遂に右足は跡形もなく消えてしまう。
それは数分の出来事だ。だが俺からすれば数時間、数日のような煉獄だ。
叫び、気絶し、また焼かれるの繰り返し。
抱き締める亡骸はもはやボロボロに崩れ落ち、妹だった破片がそこら中に飛び散る。
もはや唇を噛みしめ泣く事しか俺には出来なかった……。
「なんか、つまらない。もっと盛大に嗚咽して泣き叫んで誰か呼べばいいのに……。つまんない! つまんない! つまんない! つまんない!!!」
子供が1つの玩具に飽きて駄々を捏ねるように、女も俺の態度が気に食わんらしい。
だからだろう。女の標的は別の物へと切り替わる。
「ねぇ? アンタのそれ、そんなに大事なの? そりゃそうだよね! 妹だもんね! 家族だもんね。でもずっと持ってるのは邪魔だから壊そうか?」
俺の体力はもはや虫の息、抵抗など一瞬も持たない。
あっさりと取り上げた亡骸に女は指を鳴らす。
「やめろ……。もういいだろ。やめてくれ!!」
耐えきれなかった。止めようと懇願するも、女の気分は高まるばかりだ。
「そう! それだよ! それが見たかった。アンタのその顔を見ながら殺したかった。でも、もっともっともっともっと、もぉ~と絶望して死んでね♡」
「やめろォォォォォォォオ!!!!!!」
粉々に砕けた物が数時間前まで自分の妹だとは到底思えない。
もはや頭の中は真白になり、耳元には女の笑い声がこびり付く。
「楽しかったよ。それじゃお待ちかね、殺してあ・げ・る♡」
飛切りのスマイルで女は足を上げ、身に着けた赤いヒールの踵を俺の胸へと押し当てる。そして聞き覚えも無い単語を唱えたのだった。
「一応礼儀は尽くすわ。
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