第25話

 ハルヒはあっち!と叫びながら一直線に駆けていく。確かに遠くの街灯に人影っぽいのが一瞬見えた気もするが、この暗闇で見つけるのはやはり大した奴だ。おいちょっと待て、あのコート朝比奈さんのじゃねえか!?


 街灯の光に映し出されていたのは黒っぽいコートを羽織った長身の奴、そしてその足元にコートを着た誰かが倒れていた。光の加減で胸より上が見えないがあのコートと靴は今日朝比奈さんが着ていたのと同じものだ。


 俺たちがさらに近付くと、足音に気がついたのか、立っていた奴がこちらを振り返った。顔は見えないが手元にはまだ硝煙が出ている拳銃が見えた。そして、さっきは気がつかなかったが、倒れている人の背中には、ナイフが垂直に突き刺さっていた。


「うわああああああああ」


 ハルヒと俺がそいつに殴りかかる。幸いなことに弾切れか弾詰まりか知らないが相手は撃ってこなかった。そいつは俺の渾身の右ストレートをさっと避け、右手で俺の手首を掴み、ハルヒのドロップキックに対しては体制を後ろに反らせ、前につき出した自分の左足を合わせて器用に衝撃を相殺した。


「やれやれ涼宮君。殴りかかる前に相手の確認は必要ではないかね」


 聞き覚えのある、渋い声が響いた。


「涼宮さん!この方は朝比奈さんではありません」


 倒れた人物に駆け寄っていた古泉が叫んだ。何だって、じゃあそれは誰だ。腕を解放された俺は、倒れている人に駆け寄った。


「つ、鶴屋さん!?」


 それは『朝比奈さんの格好をした』鶴屋さんだった。 どうして鶴屋さんがカツラをかぶって朝比奈さんのフリをしているんだ。


「…ッ」


 倒れている鶴屋さんから微かに声が聞こえた


「大丈夫ですか鶴屋さん!」


「め」


「目もやられたんですか!見せてみてください!」


 とうつ伏せになった鶴屋さんをごろんと横に倒した瞬間


「にゃあああああ目が痒いいいいいいい!!!!!!!!」


 鶴屋さんは目を擦りながら大号泣した。至近距離で鶴屋さんの絶叫ハイパーボイスをくらった俺は一瞬気を失いかけた。だがそんな俺のことを気にする様子もなく、鶴屋さんはウワーーーとすさまじい声量で泣き続けた。


「いったい何がどうなってんのよ」


 俺と同じことを感じていたらしくハルヒが呟いた。


「やっと頭が冷えたようだ。とりあえず、私に言うことがあるんじゃないかね」


「あ、あれ、新川警部じゃない。なにしてるのこんなところで?」


 渋い声の主は古泉の機関の新川さんだった。いつもの執事の恰好ではなく、古ぼけたコートを羽織っていた。


「やれやれ、それが勘違いで殴りかかった相手への言葉かね。まあ今回は我々の失態だ、強くは言えないな」


「失態?どういうことよそれ。みくるちゃんは何処にいるのよ!」


「あの人は…ッ…自分の部屋で…ッ…眠ってる」


 鶴屋さんがハンカチで目を押さえながら教えてくれた。


「まあ何にしてもだ。いつものように部屋で話すとしよう。深夜料金にはならんだろうね」


 新川さんが険しい顔でハルヒに言った。


「当たり前よ。何があったのか全部ゲロするまで帰さないからね」


 警察相手に使う言葉ではないことをハルヒが宣言した。

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