第23話

「それじゃあ行きましょう!」


 鶴屋さんと話したからだろうか、ハルヒの機嫌がだいぶ良くなっていた。ハルヒを先頭に、俺、朝比奈さん、最後に古泉という並びでぞろぞろとロンドンの街を歩いていった。


「涼宮さんのお姉さんってどんな方なんでしょうね」


 朝比奈さんが俺に話しかける。まあ、ハルヒとうまくやれるってことは大した人物でしょうね。


「ふふっ、そうですね。でもキョン君もそうですよ」


 いたずらっぽく笑う朝比奈さんに、俺はそういう意図で言ったんじゃないですよ、などと答えていると、ハルヒはとある戸建ての前で立ち止まった。。呼び鈴を押すと扉がガチャリと開き、出迎えてくれた女性が俺達を見てニコッと微笑んだ。ああ、なるほど。ここでこの人が出てくるのか。


「園生ねえさん、ひさしぶり!」


ハルヒとハイタッチしているのはある時はメイド、ある時は古泉の機関のエージェントである森園生さんだった。



「あなたが執事の古泉君ですね。お願いしたいのは、この部屋の片づけと夕御飯の用意、あとは日用品の買い物です。私が仕事から戻ってくるのは深夜ですので、その時に全て終わっているのが望ましいわ。早く終われば夕方には帰ってもらって結構よ」


「分かりました。これからよろしくお願いいたします」


 契約は成立ね、と森さんと古泉が笑顔で握手をした。今日は帰ってもらって構わないという森さんに対し、古泉はいえ今日から仕えさせていただきますと真面目に答えていた。そのうち『イエスユアハイネス』とか言い出しそうだ。


 その後しばらく談笑していたのだが、森さんは俺たちに常に敬語を使い続けていた。これがこの人の素なのだろうか?それとも機関関係者の中では敬語がブームなのか。


 古泉による手料理なんていう珍しいものを食べた後、俺たち四人はベイカー街のアパートへ戻ってきた。と同時に、俺は大事なことをうっかりしていたことを思い出した。ハルヒが古泉の部屋へ行ったすきに、俺は自分のベッドの下を覗いた。いた。


「すまん、すっかり忘れてた。腹減ってるだろ?」


 ベッドの下で寝そべっていたシャミセンは、考え事を中断されたことが嫌だったのか、少し険しい顔でこちらを一瞥し、


「道行く人に恵んでもらったので空腹というわけではない。しかしながら、戴けるものを拒むこともあるまい」


 とのたまった。つまり晩飯が欲しいってことか。分かりにくい奴だな。俺は朝比奈さんに頼んで煮干しか牛乳でも貰おうと思い、一階へと降りていった。



 しかし、シャミセンが晩飯にありつけるのはかなり後のこととなる。

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