第22話

「懐かしい文面さね~。名だたる大富豪のところにもこれと同じ手紙が来てたにょろ。まあ『大切なもの』ってもお金しかとらないんだけどねっ。ゆえに怪盗といわれてるっさ」


「でもあたしはお金なんてたいして持ってないわよ。食べ物はみくるちゃんが買ってきてくれるし、いらないものはキョンが買うし」


 俺が買うものはいらないものなのかよ。鶴屋さんも少し考えるような顔をした。


「ってことは別の目的かもね。私怨とか、ハルにゃんを困らせたいとか。心当たりはないかいっ」


「冗談じゃないわ!あたしほど人に迷惑をかけない人間はいないわよ!!!」


 嘘つけこの野郎!!!どの口がそんなこと言いやがる。虚言癖でもあるのか。


「ん~じゃあなんだろうね?とりあえずあたしはしばらくこの辺にいとくよっ。何かあったら呼んどくれ!」


 そう言って手をひらひらと振り、鶴屋さんは出ていった。


「いったい誰なのよ!見つけたら死刑にしてやるわ!!!」


 長門だけどな。あ、そうだハルヒ、さっきのファイルちょっと借りるぞ。


「別にいいけど誰調べるの?」


「モリアーティー教授だ」


 これ以上のキャラはご登場は勘弁だぜ。どうか面倒なことになっていませんように。モリアーティーモリアーティーっと…あった。



 James Moriarty


『緻密な情報網を以て判断を下し、部下に作戦を与える。計画立案の手腕は狙った獲物は必ず逃さないと言われる』


「パーソナル情報はこれだけか?もうちょっとないのかよ」


「簡単に言ってくれるけど、ほんとにそれくらいしかないのよ。警察にだってそれ以上の情報はないわ。その名前だってたぶん偽名よ」


 はあ、やれやれ。まあいい、一応教授の部下にも目を通しておこう。


ガチャッ


「おや、先ほどの方は帰られてしまわれましたか。申し訳ありません、コーヒーを淹れるのに時間がかかりまして」


 幾分か顔色がマシになった古泉が三つのカップを盆に載せて入ってきた。せっかくだからお前が飲め。どうせまだ眠いんだろ。


「ではそうさせてもらいます。ですが、働き口を探さなくてはならないので、これを飲んだら出かけてきますね」


 ご苦労な奴だと思っていたらハルヒが信じられないことを口にした。


「その心配はないわ。昨日あたしの姉さんから執事がほしいって手紙が来たのよね。午後一緒に行きましょう」


 伝わるだろうか…この俺の驚きが…。姉さん?NEESAN?ユアシスター?


「なに驚いてんのよ。言ってなかったっけ?あたしが言うのもなんだけどかなりデキる女性よ」


 杯を交わした義姉妹か何かか?


「マジであんた殺すわよ。昔よく世話になったから姉さんって呼んでるのよ!」


 はぁ…次はいったい誰だ?お助けキャラで喜緑さんとか出てこねえかな。俺はコーヒーを飲みながらモリアーティー教授の部下のモラン大佐の項目を読んでいた。



Sebastian Moran


『銃器の扱いに長け、ゲームにめっぽう強く、猛獣狩りの名人であることから怪力の持ち主と推測される』



「言っとくけど、そのファイルに珈琲の一滴でも落としたら、逆立ちさせたうえでロンドン中をあたしが追いかけまわすわよ」


 そうハルヒに言われて、俺は慌ててファイルを元の棚に戻した。

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