第9話
バンという音を立ててハルヒが部屋に入ってきた。俺と目が合うとジーと睨みつけてくる。何処へ行ってたんだ?ハルヒは黙ったまま手に持っていた新聞を後ろへ隠した。
俺はやれやれと言ってコーヒーカップを掲げてみせた。ハルヒのやることをいちいち根にもっていたら付き合ってられんからな。
「珈琲を入れなおしてきます」
古泉は、俺の所作をお代わりのサインと勘違いしたのか、はたまた空気を察したのか、部屋を出ていった。 ジト目のハルヒが俺を見つめてくる。
「まあ、昨日はあたしも悪かったわ」
唸り声のようではあるが、珍しくハルヒの口から謝罪らしきものが吐かれた。
というわけで俺も改めてコーヒーをありがとうと礼を言ったが、ハルヒはフンとそっぽを向いた。
「それにしても依頼人が来ないなんて変よね。誰かあたしの実力を妬んで邪魔してるんじゃないかしら」
しばらくして、またいつもの調子に戻ったハルハが言った。そんな暇人いないだろう、というよりこの世界でもハルヒパワーは存在するのだろうか。もしあるのであればすぐにでも依頼人が殺到しそうなもんだが…。
それから待つこと二時間。カフェイン中毒になるのではないかというほどコーヒーを飲んでいると下で馬車が止まる音が聞こえた。
ハルヒの目の輝きが三割増しとなったのだが椅子に座ったまま余裕を装っている。喜緑さんとの初対面を思い出すな。さて、どんな依頼か…
ガチャ
「ここが難事件を解決すると噂のSOS団探偵事務所か。早速だが依頼がある。俺の名前は出せないが、仮にTとでも呼んでくれ。代金は前払いの小切手で…あれ、どこ入れたっけ。あ!馬車においてきちまった!!!」
ノックも知らない無礼者は不可解なオノマトペを呟きながら玄関から出ていった。
ハルヒ、気持ちは分からんでもないが真顔で拳銃に弾を装填するな。ひょっとするととんでもない難事件と報酬かもしれないぞ。
ガチャ
「おっとすまん。俺としたことがついうっかり」
「で、依頼はなんなわけ?いなくなった彼女を探せとか言い出さないわよね」
「な!?…何故それが分かったんだ!!!まだ一言も言っていないというのに!!!」
「出てけこのアホンダラケーーー!!!」
俺が止める間もなくハルヒは発砲した。 谷…もといTとかいう奴は泡を食ったように玄関から逃げていった。
銃声を聞きつけて現れた古泉は、やや苦笑いしながらコーヒーの豆を買いに行くと言い残しアパートを出ていった。
そして、それを待っていたかのように誰かが扉ノックした。
「どうぞー」
とハルヒが返事をして入ってきたのは……
情けない話だが、俺は椅子からひっくり返った。ハルヒは俺を見て少しびっくりしていたが『そいつ』は眉ひとつ動かさない。そういやこんな眉毛だったな。
蒼い髪を揺らし、無機質な面のまま『そいつ』はこちらへ歩み寄ってきた。
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