158話ほんの少しの違和感
野宿していた場所からウィスの街は1時間かからずに到着。
今現在、俺を中心に五人はそれぞれベットや床、椅子などに座って手紙が読まれるのを待っていた。
「そ、それじゃあ読み上げるぞ……」
ゴテゴテしており、封筒は地球でもあまり見かける事がない、所謂シーリングスタンプと呼ばれる蝋で固められており、慣れないながらも蝋を剥がす。
封筒の中身はそれと比べとても質素で、ただほんのりと甘い花のような香りがほんの一瞬した気がした。
………桜の花だろうか?
「ええっと、最初の一行目は………サリッチ・オーレンゾネブルム三世………ってなんでいきなり自分の名前なんだ? 普通ここは拝啓ヒナタ様とか、親愛なるヒナタへとかじゃないのか?」
初っ端から俺の知っている手紙とは違う書き出しに思わずツッコミを入れてしまうが、そこは俺の事情も知ってか呆れることなくキャルヴァンが注釈をつけてくれた。
「そうね、ヒナタの言う通りそう書き出すこともあるけれど、そういう場合は大抵どこに誰から届くか明確な場合にのみ使われることが多いの。そうでない一般の手紙は大体、商人を介した手紙の場合は封筒に宛先、書き出しに名前で書き出すことが多いわね」
「なるほどな……。書き出しに名前がないと、誰が誰だか分からないまま内容を見ないといけなくなるってことか。………逆になんでサリッチはそれを知ってたんだ?」
「それは……野暮ってものよヒナタ。…………それよりも続きを聞かせてちょうだい」
みんなの気持ちを代弁してか、先をせかされた俺は改めて手紙を読み始めるのだった——
————————
サリッチ・オーレンゾネブルム三世
春近し、雪流るる春染の泉にて
珍妙奇天烈なる仲間のヒナタ、ウェダルフ、キャルヴァン。
あんた達元気してるかしら?
てんであんた達のことを風の噂レベルで聞こえないから、ちゃんとやっているか確認するためにも手紙を書いたのよ。 感謝なさい!
それで、別れた日からだいぶ経っているけれど、ヒナタが探していたアルグとやらにはもう会えたのかしら?
いえ、答えを聞かなくてもわかりきっていたわね。会えていないならいないで、今どうしているかくらいはウェダルフを通してくらい報告して欲しいものだわ!!
いい? この手紙を見たら即刻返事を各々書いて、私に届けなさい!! これはお願いじゃないわ! 命令よ!!!
それと返事はセズや私が見るのを前提に書くこと!! ちょっとでも変なことや嫌な報告でもしてみなさい! 空を飛んででも文句言いに行くから、私やセズが楽しくなる内容にしなさいよ!!
ちなみに私たちはすこぶる順調。
順調すぎてあんた達に申し訳ないくらいだわ。
————————
以上がサリッチからの手紙であり、全部を読み終わった俺は何事もなかったのという安堵とともに、ほんの少しの違和感が頭を掠めるが、それもウェダルフの楽しげな声にかき消され違和感に気づかないまま各々手紙の感想を口にする。
「サリちゃん、相変わらず元気そうでよかったわ。それにお手紙が欲しいだなんて……ふふ。案外寂しかったのかしら?」
「ねーねー!! ヒナタにぃ! 僕もお手紙書きたい‼︎ 早く封筒と紙を買いに行こうよー!」
「わかった、わかったからウェダルフ……ちょっと落ち着こう、な。それよりもキャルヴァン。ちょっと気になったことがあるんだがいいか?」
「ん? 何かしら?」
「えーっと、ここ。この名前の次に書かれているサリッチらしくない、春近し——のところだけど、これも何か定型文的な何かか?」
「えぇ、これもそうね。たださっきと違うのは春近しというのはいつ書いたのかについて、春染の泉は場所だから……返信はここにしてねって意味かしら?」
キャルヴァンにしては珍しく曖昧な回答に、俺のなるほどなぁっと呟きながら改めて手紙を眺める。
……さっきの違和感はもしかしてこれだったのかもしれない。
そんなことを考えながらも、辛抱しきれなかったウェダルフに腕を引っ張られ、俺たちは観光と昼食がてら封筒と紙を買いに行くのだった。
**********************
普段灰色の兄弟が住んでいる、西洋の街並み然とした建物とその街を彩る木や花の色合いが宗教画のように美しいシェメイトの街とはまた違う、色鮮やかな装飾品と建物と、それを閉じるかのような薄く積もった雪との色彩差が美しいウィスの街は、エイナとハーセルフにとっても新鮮だったようで、耳はフード越しでもわかるくらい楽しんでいるのが見えて俺もウェダルフもつられて楽しんでいた。
特にこの三人のはしゃぎ様は俺でもついていくのが精一杯なくらいで、昼食が終わった後は疲れすぎないようにと少し引き気味に眺めているとあることに気がつく。
昼前までは三人と同様それなりに楽しんでいたようだったのに、昼をすぎてから一人、輪から一歩引いて歩くヴェルデの顔色は悪く、また誰かを気にしているのか時折当たりを見渡し、誰かを探しているようだった。
「………どうしたんだ、ヴェルデ? さっきから辺りを気にしているけど………もしかしてサンチャゴさんを探しているのか?」
「ッ!……………なんでもないですよ?」
この街での交友関係を他に知らなかったため、ただ思いついた人物の名前を挙げたのだが、図星をつかれたようで先ほどよりもひどい顔色で目を逸らし、それでもなお黙秘を続けるヴェルデのただならぬ雰囲気に、嫌な考えが過るがこれ以上詰めるわけにもいかず、暫く重苦しい沈黙が続いた。
なんだろう……。
なんかここ最近もこんな空気感を感じたというか、デジャヴというか……つい最近似た人物に会った気がしてならない。
ヴェルデという少年は人好きのする人物だ。
それに誰に対しても柔らかい物腰と、誠実さは彼の美点と言っても過言ではない。それにまだ若いというのに人への気遣いや優しさを持っている彼は誰が見ても良い子だ。
……だけど本当にそうだろうか?
見た目だけなら、いや話していても感じることだが、彼は俺よりも若い。それにもかかわらずこんなにも人に対して穏やかなのは少し……いやかなり心配になってしまう。
だってそうだろ? 普通このくらいの、思春期と呼ばれる年頃は俺だって不安定だった。それなのにこんなにも人に対して穏やかで、気遣いもできるだなんてちょっと異常だ。
いや、異常というのは語弊があるかもしれない。だけど可笑しさを感じるという意味では間違ってはいないと思う。
誰に対しても優しいというのは、裏を返せば誰に対しても同じということだ。人に関心がないのか、それとも………
そうだ。これではまるで……まるで誰も信じてないみたいだ…………。
そこまで考えて俺はやっと気づいた。
誰に似ていて、なんでデジャヴを感じたのかを。
ヴェルデとルイさん。
この二人は人を信じていないという点において、とても似ていた。
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