127話嘘は不信感のはじまり
希望なく、ただ絶望の淵に立っているかのようなルイさんはもうとっくに諦めてしまったのだろう。
誰かに助けを求める事や絶望に立ち向かう事も、全部諦めて自分だけのものにしたその姿は、俺が関わる以前の仲間達のようで少しだけ息苦しくなる。
「ありがとうございます。俺なりの方法でルイさんの手助けになるよう頑張りますが、今日は仲間達も待っている事なので帰ります。今日と同じ時間、この屋敷に明日仲間と来ますのでよろしくお願いします」
本来だったら相手の都合なども聞くのが良いのだろうが、何せ相手が望まない面会だ。
場合によってはこれを理由に断られかねないと思い、俺はルイさんの方は見ずに使用人のデビットさんに視線を送ると彼も無言で承諾をし、挨拶もそこそこに客室を後にする。
そうしてルイさんの屋敷の場所を確認しつつ、二人と別れた場所まで戻っていくと、血眼で猫でも入れない謎の木箱やら、数少ない見える通行人の顔のほっぺをつねったりなどして俺を探しているとは到底思えない二人の様子に、俺はなぜだろうか見つからないよう踵を返すがそれも時すでに遅く、違う木箱を探索していたウェダルフに見つかってしまい、見事腹に頭突きをくらってしまう。そんな不意の攻撃になすすべもなく後ろへ尻もちをついてしまった俺はめげずに立ち上がろうとするが、一手早かったウェダルフの強烈な羽交い絞め……もといハグの洗礼にさすがの俺も白旗をあげ、おとなしく受けるのであった。
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「ほんっと………なんでヒナタ、あなたって子はいつもタイミング悪く単独行動しちゃうのかしらね?」
「でも今日は早めに見つかって良かったね~! ヒナタにぃのおかげで僕探し物得意になっちゃったー!!」
宿泊先である宿に帰るや否や、始まる二人のお小言に俺は頭も上げず床へ正座していた。
そんな姿に怒りを通り越し呆れ果てたといわんばかりのキャルヴァンと、俺のことを猫かなにかだと思っているのだろう、ウェダルフの無邪気ゆえに容赦なく襲い掛かる毒牙に俺は反論せず言葉をグッと飲み込みただひたすらに沈黙していた。
だがそれすら日常化してしまったのだろう、二人は呆れつつも俺の話を促すように目線を合わせ、俺もその合図とともに明日の流れについて一通り話し始める。
「とりあえず今日のところは顔合わせ程度ということで、俺のことを自己紹介と言う形で話したんだけど……。まぁ、なんというか……どうしてかその、流れで思わず俺の正体バラしちゃいまして………」
二人の反応が怖くなって段々と尻すぼみなっていく言葉を二人は驚嘆するわけでも、ましてや怒り出すこともなく俺の言葉をうんうん、と受け止めそして口をそろえて一言放つ。
「「なんでそうなったの」」
………ん? おや? 今しがたお二人とも納得したかのように頷いてたじゃないですか。それなのに出てきた言葉は納得のなの字もないのは何故?
「そんなヒナタにぃ……あの説明で納得できるだなんて、逆になんでそんな確信が持てたの? 誰が聞いても疑問しかわかないよ?」
俺の心を読んだかのような返答に俺も応戦しようと口を開くが、ここでキャルヴァンのアシストがすかさず入ってきた。
「そうねぇ………普通ならどんな流れであったとしても自身の身を危険にさらすような暴露なんて………”普通は“しないわよね~?」
100人中100人が聞いても嫌味だとわかる切れ味抜群の言葉をありがたい事にも頂いてしまった俺はこの後一切反撃すること叶わず、ただひたすらに説明&平伏を繰り返し約3時間後。
ようやく落ち着ける事ができた俺は、地面にのめり込む勢いで続けていた顔までが地面に這いつくばるような土下座をやめて、改めて今後の流れについて話し合うこととなった。
「それじゃあ明日は一先ずみんなでルイさん邸に行くとしてみんなには先に言っておきたい事があるんだ」
俺が真剣な面持ちでそう告げると二人も息を詰めて続きを待つ。
「明日ルイさんと会う時なんだが…………なるべくキャルヴァンは実体化せずに、ルイさんから目を離さないでいて欲しいんだ」
「えぇ、それはいいのだけれどただ……。理由は脱走防止と尾行の為ってことかしら?」
「あぁ、その通りだ」
流石に何時間にも及ぶ説明のおかげかキャルヴァンもすぐさま理解し、俺も頷き返すとキャルヴァンは暫しの黙考の後、顔を曇らせながら顔を横に振る。
「ごめんなさいね、ヒナタ。普段だったらそれでも良いのだけれど、今回に限っては私は最初から見えていた方がいいと思うの」
珍しく反対意見を述べるキャルヴァンに今度は俺が顔を曇らせキャルヴァンの言う意味を考えるが、思いつく限りではどれも反対までに至る理由ではなく困惑してしまう。
「そうね……。ヒナタが分からないのも無理ないと思うわ。だってあなたって子は、人にどんな事をされても結局“それ”を許せてしまうのだもの」
「“それ”って……? 俺は特に何も…………」
ますますもって意味の分からない事を言われた俺は内心焦りを隠せずそのままキャルヴァンの前に出してしまうが、キャルヴァンはそんなことも分かっていたのだろう、少しの困り顔で俺の言葉を受け止める。
「欺瞞……エゴといったものかしら。ヒナタは人の嘘や傲慢が許せるかもしれないけれど、話を聞くにルイさんはそれらが許せない人じゃないかしら?」
キャルヴァンはそういうが俺はそんな出来た人間ではない。人に嘘をつかれるのも、騙されるのだっていやだし腹は立つが、今気にするべき問題はそこではない。
確かにキャルヴァンの言う通り、嘘ではないがキャルヴァンのことを黙ったまま行動したとして、それがアクシデントや騙し討ち的にルイさんにバレたら………恐らくそれがキッカケで二度と心を開いてはくれないだろう。
そうじゃなくても、俺達が後から言ったところで、ルイさんからしてみれば俺たちのその行動は不誠実そのものだし、なりよりまた逃げ出すという前提でそれをやるということは、ルイさんの事を信頼していないと言ってるも同然ではないか。
「そう、だな。確かにキャルヴァンの言う通りちょっと考えなしの案だった。俺もルイさんは他人に対して諦めている節があると思うし、そんな人に不誠実な行動や態度は悪手になり得るよな」
「えぇ、恐らくはルイさんは他の人から向けられる猜疑心に敏感なんだと思うわ。だから同じくらい自分以外の事柄を疑うし、嘘を嫌ってしまうのではないかしら」
キャルヴァンの言葉に俺とウェダルフは深く頷き、明日はなるべく隠し事や嘘をいわず、また彼の言葉を信じて行動することを皆で約束してその日は何もなく終わるのであった。
そして翌日。
朝食をしっかり済ませた俺たちは、遅れないよう少し早めの時間に宿を出て、昨日伝えた通りルイさんの屋敷を尋ねるが出てきた使用人の女性が、俺たちを見るなり顔を曇らせ気まずそうに主人に伝えられた言葉そのままを伝えてきたのだった。
――好きにやればいいとはいったが、協力するなど一言も言っていない。そして私は今日から必要となったギルド関係の仕事と、今日から日課となっている散歩があるため君たちとはもう会うこともないだろう――
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