125話思い余って暴露
「それじゃあ年寄りらしく説教したところで今から会ってもらう人物について軽く知っといてもらおうかの」
少しだけしんみりした雰囲気を振り払うような一言と共にサラさんは目の前にある手紙を人差し指で指し示し俺達の視線が集まるのを待つ。
「今から会ってもらう人物だが、さっきも言ったとおりそれなりの権力と地位を持った相手だ。だからこの手紙はそんな煩わしいところをショートカットするためのもので、これがあれば会うこと自体はすんなりゆくはずさ。後はこのメダルだが………まあ万が一で用意しただけだから、お前さんらの問題が解決するまでお守りがわりに持ってればいいさ」
暗に示されたその先の難しさに俺たちは息を詰めて聞くが、そんな姿がよほど可笑しかったのか、サラさんは辛抱たまらないと言った顔でひと笑いして、俺たちも毒気が抜けてしまう。
「なに! そんな顔して聞く話でもないさね!! 要はお前さん次第で事態はいくらでも変えようはある。今から会うルイも変っちゃあいるが別段難しい性格の子じゃない。……ただ難しいのはあれが抱えている問題さね」
「と、いうと……それってつまりその問題解決に至れるかどうかで状況が変わってくる……そういう意味ですか?」
俺の言葉に静かに頷き返すサラさんに内心またこれか……というある種逃れられない運命のようなものを感じ、うんざりとかではない、他人の心の領域に土足であがり込まねばならないしんどさが眉根を潜めさせる。
そんな俺の内心をしってか知らずか、サラさんは話を続けルイという男性についてより詳しい情報を話す。
「ルイ……ルイ・キャトルレスタート・ローズは現領主のラミュ・ローズ様の孫の孫の……と言った所謂分家筋にあたる子でね、性格はいつも何かに怯えるくらい内気な子で、あたしが知ってる限りではこれといって親しい友人もいないはずさ。まぁそこはさっきも言ったが大した問題じゃない。問題なのはあれの家……ローズに連なる者たちには死活ともいえる吸血行為………それができないのが問題なんさね」
あぁ、なるほど成る程……ってルイって人物もしかしなくても吸血鬼ってやつかッ?! するってえと血が吸えないっていう悩みが解決できればギルドにも加入できるってもんで、それってつまり俺の血を飲んで貰えば万事解決なのでは!!?
………いや、でも待てよ……?
「そう簡単に事が収まればの話だがね。さっきも言ったがあれの問題は内気な性格のせいじゃなくもっと根深いところさね。なに……あたしもよくは知らないのだがね、血が怖いんだそうだ。血を見るのも理解してしまうのも嫌悪でしかないと……そんな事を言ってる相手の悩みをお前さんらならどう解決する?」
血が怖い……ってそんな自己の否定にも繋がりかねない大きな問題だと理解した瞬間、先程までの元気さは消え失せ傍からみても分かるくらいのガックリと肩を落としてしまう。
そんな俺とは対照的にウェダルフは何か思うところがあったようで、どこともなく視線を泳がせた後小さな声で自身の意見を話し始めた。
「……そのルイさんって魔属の気持ち、僕ちょっとわかるかも………。確かにこの能力のおかげで助かったことも多いけど、それ以上になんでそんな力が僕にはあるんだろう、なんで人とは違うんだろうって怖くなったりもするから………」
「………ウェダルフ」
ウェダルフの知られざる悩みを聞いた俺は何も言えないままそっと頭に手を添えると、今は大丈夫だよ! と明るく返すとそれよりもとお婆さんのいうことについて、彼なりに真剣に考えこむ。
その姿に感化された俺も、キャルヴァンの言ったことも含めてルイさんの悩みについて考えるが、血が怖くてそれを欲する自身も嫌だなんていう相手にどう解決したらいいのか、すぐさま答えがでないような気がして俺は思考を固めてしまう。
そうしてサラさんの話もそこそこに骨董屋さんを後にした俺たちは、一先ず休むための宿にチェックインし、急ぎ話をするためにとルイさんの住む豪邸まで行ってサラさんの話通り、手紙を使用人に渡し急に来たのにもかかわらず、明日アポイントの約束を取り付けることができたのだった。
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翌日、使用人の方の言う通り指定された中央にある広場へと向かった俺達だったが、約束の時間になっても一向に現れる様子のルイさんにさすがの俺たちも待ちくたびれ、俺を残しキャルヴァンとウェダルフは何か食べるものを探し広場を少し離れてた。
「やっぱりサラさんの手紙だけじゃダメだったのかぁ〜? それにしても昨日は邪険にされるでもなく案外すんなり話が通ったのになぁ………」
待ち合わせの時間から早二時間。
いくらお人好しの能天気と評される俺だってこの事態が芳しくないことは嫌でもわかり、待ち疲れたこともあって肩をがっくりと落として、独りごちていた時だった。
「……まち……ださい! また……げるので……る……!! ルイ様!!」
喧騒に紛れながらも聞こえてきた名前に、俺は勢いよくその方向へ顔を向けると、広場を抜ける道の手前で二人の男性が揉めている姿が見えた。
「は……わた……来る気など………もう…………!」
そんな会話と共にガタイの良い男性は俺の方をチラリと見流や否や、広場を離れるのに気づき、俺は仲間を呼ぶ暇もなく後を追いかける。
「…………!!」
「ルイ様!! …………ッ!!! 昨日の方! このまま黙って私について来てください!!」
通りざまに昨日の使用人の人に声を掛けられ、内心俺の手助けをすることに驚くが、ここでもたついていたらあの男性には追いつけないと判断し、何も言わず使用人の後をついていくと、まるでどこに男性が向かっているのかわかっているかのように、複雑な構造の街を縦横無尽に駆け抜けあっという間に男性の腕を掴み捉えるのだった。
「はぁ、はぁ……!! 観念してくだいルイ様!! 貴方様だっていつまでもこれでいいとお思いではないでしょう?!」
「フゥ………フゥ…………ッにが……わかるって?! 誰も分りはしないッ!私以外私の悩みや苦しみが分かるはずもないんだッ!!」
お互い全力で走り回ったにも関わらず、ルイという男性は掴まれた腕を思い切り振り上げまた走り出そうと足を一歩踏み出すのに気づいた俺は遮るため目の前に躍り出る。
「なッ……に、するんだ君は?! 私が誰か分かってるのッ……か?!!」
「えぇっと!? いや、わかんないですッ!! でもっ え、と……あ!!! はじめまして、俺金烏日向って言います!! 一日一善が趣味で今現在ちょっとだけ変わった人生を送ってます! だから仲間の皆もちょっと変わってるかもしれません!!」
自分の行方を阻んだ男が突如自己紹介をしはじめた事に、驚きを隠せないルイという男性は、先程の威勢の良さも何処かへなりを潜めただ大口を開けて俺を見つめ、顔にはこいつなんなんだと大きく書かれていた。
かく言う俺自身も咄嗟とはいえなぜ自己紹介をしてしまったのか、自分自身の思考についていけず戸惑っているがこれはあれだ、あれなのだろう………!! つまりは名前を聞くならまずは己からというやつだ!!
「は?! な……アンタいきなり何言ってるのヨ! 止めるにしたってもっとマシな言葉があるじゃな……ッ!!?」
言葉を不自然に切り、慌てた様に右手で自身の口を塞ぐが出てしまった発言はもう隠せないと実感したのか見る間に顔が青ざめ目は輝きを失ったかの如く、ひどく淀んでいた。
そんな様子に俺も彼の抱える事情をそこはかとなく察してしまい、暫し沈黙してしまうが、ここで何かを言わなければ恐らく彼は俺に心を開いてはくれない。そんな気がした俺は頭をフル回転させて発した言葉が
「す、すみません! 俺さっきの事であなたにちょっとだけ嘘付きました! 実は俺……異世界の人間でこの世界の神様候補なんです!!」
……自らを危険に晒す行為だとは頭の片隅では思っていた。だけどこうでもしないと今彼が抱えている絶望を上回ることなんて出来やしなし、ましてやここで嘘でもつこうものなら彼は二度と俺に心を開きはしないだろうと一瞬のうちによぎった思考は、大いに暴走してしまいこんな暴挙に打って出てしまう。
「…………は……。なにヨそれ……アンタさっきからホントわけわかんない……」
脱力といった様子で肩を落とし諦めたかのように使用人の手を振り払うと、トボトボどこかへ俺たちを振り返る事なく向かって歩いて行った。
そんなことは慣れっこなのか、使用人の男性も無言で後をついてくるよう目線で促すと、そのまま気まずい雰囲気の中ルイさんの住まいである屋敷へと招かれるのであった。
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