第62話引いてダメなら押してみる
昨日は大変だった。
それというのも、この街の人達は俺の予想以上に噂話が大好きなようで、俺たちが旅人だという事は風よりも早く伝わっており、その組み合わせの物珍しさも相まって、宿を一歩出るなり、ちょっとした有名人のような質問攻めにあってしまった。その内容といえば、どんな関係なのか、とか外の国はどんなところがあるのか、とかそういった俗物的な質問ばかりだった。だが、なにしろおしゃべりで食事を終える頃にはみんなヘトヘトになっており、料理はエキゾチックな感じで美味しかったのに、会話で忙しなくて急いで食べる事しか出来なかった。もう……なんか色々な意味で本当にもったいない街である。あと何日こんなのが続くのか、なんて考えるとげんなりしそうだ……
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最近の俺はアルグのスパルタ教育を受けたせいか、アルグに次ぐ早さで目が覚めるようになっており、この日も日が出る少し前に目が覚めてしまった。隣には安らかな寝息を立てるウェダルフとファンテーヌさんがおり、俺は彼女に無言で一礼し、彼女も優しく微笑み返した後、再びウェダルフに目線を戻す。
朝の挨拶を済ませた俺はいつもの通り、弓を持って街の外へと出かける準備をする。ここまではアルグがいた頃と同じ日常だが、ただ違うのは練習に付き合ってくれる相棒がいない事だ。
今までとは少し違う日常をかみ締めながら、俺は町の外へと出る。練習するからにはモンスターも人も通らないところでしなければならず、だからといって街から離れるのも危険だと、散々アルグに言われてきたのを思い出しながら、辺りをきょろきょろ探索する。
そのときだった。
人も歩いていない時間帯に一人怪しく動く人影が、街の入り口付近で挙動不審に見渡しているのが見え、俺はおもわずその場で体を伏せ、息を殺しその人物の行動を見つめる。
「ん? どっかでみたような?? …………!!」
記憶の奥で何かが引っかかったような気がしたが、思い出す前にその人物が動き出し、その行く末を息をつめて見つめてしまう。
人影の細さからその人物が女性である事はわかったが、いかんせん遠く、何をしているのかはっきりと捉えることができず、俺はじりじりと匍匐前進をする。
相手に見えるか、見えないかぐらいの距離まで近づけた俺は、体を少し起しその人物を注視する。……もしかして、もう一人いる?
何を話しているのかまでは聞こえないが、その人物は身振り手振りで相手に何かを訴えかけているようで、そのリアクションからはただ事ではない雰囲気を感じる。あー……この位置からだと相手が見えないな。
ばれない事をいいことに俺の行動は大胆になっていき、しまいには相手を良く見ようと相手に視認されてしまうところまで移動してしまい、その姿を捉えようと顔を上げる。
だが顔を上げた瞬間、もう一人の不審人物と俺の目はバッチリあってしまい、おれは大慌てで顔を伏せ、激しく打つ心臓を何とか落ち着かせようとつとめる。
「ッやっちまった~……。どうしよう、殺される? 俺殺されちゃうかもしれない……!!」
早まる呼吸音を何とか静め、戦う覚悟を決め俺は顔を上げるが、そこにはもう誰もおらず俺は再び一人になっていた。
「……た、助かった~!! 死んだかとおもった!!! ……にしても、さっき目が合った人、美人だったな……」
体を反転させ仰向けになると、上り始めた太陽が空を薄ピンクに染めていた。そんな空の変化を眺めながら先程の記憶を思い起こす。一瞬だったが目が合った時にチラリと見えたその顔は、例えるなら東洋美人といった感じで、これまたエキゾチックな雰囲気を醸し出していた。それにおそらくだ……。キャルヴァンと同じくらい豊かだったな、あの人。何とは言わないけれど。
それとあともう一人の人影……。後姿だけで顔は見えなかったけれど、もしかしてちょっと前に会った警戒心MAX女性ではないだろうか?
挙動といえばいいのか、なんか既視感があるし、それになんだろう……? あの異常な程の怯えようは何かを隠している気がしてならない。
俺はこれから起きることに予感を感じつつも、当初の目的であった弓の練習をするため再び起き上がり、滞りなく練習を終え宿に戻る事にした。
「おはようヒナタ。今日も弓の練習がんばったのね……えらいわ。今日はセズちゃんたちとゆっくり街の中を見て回る事になってるのだけれど、ヒナタも一緒にどうかしら?」
宿に戻ると、お母さんの如く迎えてくれたキャルヴァンに、俺も朝の挨拶を交わすため目配せで実体化を促す。
「おはようキャルヴァン。今日も俺はちょっと気になることがあるから別行動しようと思う。なんだかこの街で起きるような気がするんだ」
ここまで旅してきて学んだ事。それは巻き込まれる前に自ら関わっていく方が後々動きやすいという事だ。きっと、いや絶対俺はこの騒動に関わる事になるのだ。ならば動きが取れなくなる前に、出来る限り情報を集めたほうが自分のため、ひいては仲間の為になるってもんだろ。
「そう……。わかったわ。でも一つ私からもいいかしら? 何かあったら私達にちゃんと話す事。絶対一人で解決しようとしちゃダメよ?」
メッ、といって顔を顰めるキャルヴァンは、流石記憶を覗いただけあり、kれから俺が起こすであろう行動に釘をさしてきた。
「わかってる、ここまできて流石の俺もいい加減学んだよ。仲間を助けるつもりで動いても、それが裏目に出るって事くらい……な」
うーん、なんだかこんな会話ですら、フラグでしかないような気もするが、だからといって言葉に出して伝えなければ、それはそれで困った事になる。まぁ、気にしすぎかな?
その後、俺たちは皆がおきてくるのを待って朝食を済ませて、それぞれの目的のため分かれて行動することになった。
キャルヴァンたち三人は、街を少し外れた場所へと向かい、俺は昨日と同じく人の出入りが激しい商店通りへと向かう。
商店が様々立ち並んでいるだけあり、そこかしこに人が列をなして、前に進むのも苦労するぐらいの賑わいを見せていた。俺はその中を掻き分けつつ、話を聞けそうな人総当りで、向日葵の一族の話を聞いて回るが、有力な話は一つも出ないまま、昼を迎えてしまう。
「っはぁ~~……。何も収穫なし、かぁ。一先ずは昼ごはんを……」
昼ごはんになるような屋台飯を探すため、辺りを見渡していたときだった。通りの隅のほうで王様という単語が聞こえたような気がし、俺はそちらに体をむけると、隅の方で井戸端会議している人達に近づく。
「あの……さっきこの国の王様の話をされてませんでしたか?」
俺の掛け声に男性たちは俺のほうを見やり、迫力のある面立ちで凄んでくる。しまった、この街のアウトローに声かけちった……。
「ぁあん? なんだぁ兄ちゃん? 俺たちの話が気になるてぇのかい?」
「あんちゃんこの国のもんじゃねえだろうが……。俺たちの話を聞いてどうするつもりだ?」
うわーん、もう最初から好戦的でどうしたらいいの、神様!!
んー……そうじゃなあ、ひとまず相手を刺激しないようにしつつ話を聞いてみようじゃないか、ヒナタよ。
……って!! 一人芝居してみるものの、怖いものは怖いわ!
「すみません、突然お声かけしちゃって……。確かに俺は旅人で街の人間じゃないですが、この街を好きになっちゃいまして……。だから王様の事も気になっちゃったんですよねー、あはは……」
お願い、これで落ち着いてくれ! 静まれーー若人。
「そうか……、ありがとな。俺たちもこの街が好きだから、よそもんのお前にそういってもらえると……へへっ、照れるな!」
チョロイ。チョロすぎやしないか、若人その1よ。こんなのでコロッと落ちちゃうなんて、俺は君の将来が心配だよ。
「まぁ、確かに悪い気はしねえな……。それで? あんちゃんは何が聞きたいってんだ?」
お前もか、若人その2。あれか、あれなのか? 純粋すぎるがゆえのアウトローってやつなのか、どうなのだ?
なにはともあれこうして俺は、有力な情報を得るための手段を獲得したのだった。
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