第58話動きはじめる彼の運命
パチパチと音をたて燃え上がる薪を眺めながら、俺とキャルヴァンは静かにウェダルフの話を聞く。アルグは見回りといってどこかへ出かけており、セズは疲れてしまったのか、食事したすぐ後に眠ってしまった。食事中、何故迎えがこなかったのか気になった俺は、何度かアルグに問い詰めてみたが、不自然な程話をそらされ聞くことすら出来なかった。
そのアルグの様子のおかしさは二人も気付いているのか、一切触れる事無く、こうしてアルグがいなくなって初めてウェダルフが話しかけてくれた。ウェダルフの話を聞きながら、俺は今日三人に再会するまで起きた出来事をぼんやりと思い返す。当初では三日で済むはずだった待ち合わせが、なにがどうなって今日まで伸びてしまったのか、その原因を。
一つ目の原因はウェダルフにすら見えないはずの小屋が、俺にはばっちり見えてしまった事。これを見つけたから俺はキャルヴァンと知り合うことができたのだが、トラブルの元にもなっているのは間違いない。
てかいまだにこれ解決してないよね。ウェダルフにも見えないのが俺に見えた理由ってやっぱり神様だから? ……考えてもよく分からん。
次に自身の能力を自覚していなかった事。でもこれも気付かなくても仕方ないよね? だってなんにも説明されずにこの世界に来たんだし。確かによく考えればおかしかった。この世界に来たときから話せたり、見た事もない文字が読めたり、変身しちゃったりとなんで気が付かなかったのか、今になって思う。でもそれが全部仲間が入ったから得た能力ってわけでもなさそうだし、実際アルグとの時は何も起きなかったのは何故……?
こちらもよく分からないので、謎って事でひとまず置いておこう。
そして最後の原因は、約束したのに謎の行動をして結局迎えにこなかったアルグだ。元凶はキャルヴァンにあったとしても、アルグが一人変な事をして気絶していなければ、そもそもこんな事にはならなかったはずだ。
そう思うと、あの痛い拳骨は俺受ける必要あったか……? とちょっと理不尽に感じる。そう、俺は今になって腹が立ってきたのだ。
「なぁ、アルグはそのときのことについてなにか言ってなかったのかよ……? 」
ウェダルフが悪いわけじゃないのに、責めるように出てきてしまった言葉に苦い思いが心に広がる。
「ヒナタ……。アルグを責めたりしてはダメよ。元はといえば私のせいで、彼には彼の大切な探し物があるのよ、きっと……」
実体化をいまだに解かず、俺のそばで泣きそうにするキャルヴァンに俺はさっきよりも広がる苦味に思わず目線を逸らし、さっきより勢いがない焚き火に木をくべ、誤魔化す様に燃える火をいじる。
「ヒナタにぃ、僕いやな予感がするんだ。この先の国、ユノで何か悪い事が起きる予感が……。そうなる前にアルグにぃやセズちゃんにはあの事を言ったほうが――
「ここまで話してくれてありがとうな、ウェダルフ。お前も俺のせいで疲れただろうに、無理させてごめん」
何を言われるのか、予想が付いてしまった俺は、遮るように話を終わらせいそいそと寝床につく。ごめん、ウェダルフ。俺はまだ二人には言わないままで……人間のままでいたいんだ。たとえもうばれているとしても、俺さえアルグやセズに話さなければそのままでいられる。
そう思っていたのに……。運命は俺を逃がしてはくれなかった。
事態はこの日を境に大きく変わりその始まりは翌朝、アルグの一言で始まった。
「ヒナタにセズにウェダルフ、そしてキャルヴァン。俺はユノ国の主要都市グェイシーに着き次第、俺の目的を果たすためにお前達から別れて旅をしようとおもう」
あまりに突然すぎるアルグの別れの言葉に、俺たち全員驚いてなにも言えなくなってしまう。なんで、なんでそんなことになった?!!
「なんでッ!!? 俺たちずっと一緒に旅してきたじゃないか!! それなのに何で今頃そんな事言い出すんだっ??!!」
「ヒナタさんッ!!?」
おもわずアルグの襟足を掴み、自分のほうに引き寄せ睨み付けるが、アルグの意思は固いのか怯む事無く、何も言わずに俺の目を見つめてくる。
「何とかいえよ!! リッカの街で一体何があったんだ?!!」
「……もう決めた事だ。それに元々オレはオレの目的があってヒナタと一緒にいただけだ。それが今違えた、それだけじゃねえか」
平坦な声であまりにもアルグらしくない一言を俺に突きつけて、何の感情もなさげに俺の手を振り払い、旅の準備を一人始める。
今までのアルグとは何か違う、そんなことは分かっているのに今の俺には彼の心も考えている事すら掴めやしないのだ……。
「ヒナタさん、今は……今は旅をするしかないです。立ち止まっていてもアルグさんをとめることは出来ないんです……」
辛そうに話すセズに俺も無言で頷き返し、旅支度をはじめる。そうだ、アルグが居なくなるまでまだ時間がある。それまでに説得できればいいじゃないか。そんな自分勝手な願望をアルグに押し付け俺は再びユノ国へと足を向けることとなった。
だが当然といえばいいのか、その道のりは重苦しく誰一人として会話をしようとはしなかった。いや、出来なかったの間違いか。
普段の俺たちの旅といえば、俺が率先してお喋りをしてたから成り立っていたようにおもう。その俺が今、黙りこくったままアルグをじっと睨んでいては会話をするのも嫌になるのはわかっていた。
分かっている、それではダメだと。だけど、なにも言わないアルグに俺は相当腹が立っている。なんで仲間なのに大事な事を一言も言わずに離れようとするんだ。
「ヒナタにぃ、アルグにぃ……僕もう歩き疲れちゃったよ。ちょっとだけでもお休みしていい?」
心底辛そうなウェダルフの声に俺もアルグも振り返り、そこでやっとはじめてセズとウェダルフの息が上がっていることに気がついた。
なにしてんだ、俺は…………。
「すまん、二人とも。丁度昼時だしここらへんでご飯にしよう。ヒナタ、狩りにいくぞ」
アルグに短く言われ、俺はなにも答えずあとを付いていく。その様子を不安そうに三人は見ていたが、俺だって不安だ。何時も通りに会話できないのもそうだが、このまま狩りをするのかとおもうと気が重い。
無言のまま森の中を歩き、身を隠せる場所を探す。ここまではいつも通りだ。あとは岩陰でも見つけてアルグと二手に分かれてしまえば一息つける。そうおもっていたのにこの日の狩りはいつもと違い、フォローに回るはずのアルグは、この日を境に俺が獲物を仕留めるまで何分、何時間も森の中を歩かされた。
当然昼ごはんとして始めた狩りも、俺が獲物を持って帰る頃には夕方になっており、ウェダルフは泣きながら俺たちを出迎え、文句を言っていた。
「貴方達がいつまで経っても帰ってこないから、セズちゃんもウェダちゃんも心配してたわよ。探しにいこうにも二人を残していくわけにはいかないし……」
流石のキャルヴァンも心配したようで、アルグに注意をしていた。会って間もない二人だが、キャルヴァンの性格もあってすぐにアルグとは打ち解けていた。
「すまない、だが次も同じよう暫くは掛かるだろう。なにせヒナタにはこれから一人で狩が出来るようになってもらわないとオレも心配だからな」
「なッ!!? そんなの俺まだ認めてねぇぞ!! なんでそんな勝手に話を進めるんだ!!!」
アルグの有無を言わない自分勝手な別れの言葉に、俺は自分の事も棚上げに抑える事が出来なかった怒りをアルグにぶちまけ、しまいには殴り合い寸前まで喧嘩する事となってしまった。
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