第5話いきなり人類滅亡END⁈



 ——拝啓、お袋さん。

 お元気ですか? 俺は今日死にました。

 人生は何があるか分からない、だからこそ今を楽しめ!! それが貴方の口癖でしたね。人生って……本当になるがあるか分からないな……と、今俺はとても後悔しております。

  死んだ事は勿論そうですが、それ以上に大事な……大事なものを無くしました。そうです。人類を救う為に必要な隕石を……落としちゃったんです。

 地上へ蹴落とされて、ほんの数時間で。

 ごめんなさい、地球の皆様。俺のせいで人類は滅んじゃうかもしれません。敬具——






**********************





——それは遡ること2時間前の事——


 何者かが俺の服をまさぐっている感覚と、痛いくらいの寒さで目覚めるとそこは雪深い森の中だった。

 まず自分の体を確認する。よし、たいした怪我はないようだ。次に、隕石の有無を…………まて、まてまて!! 無い?! どこにもないぞ!! ポッケというポッケを探るが、隕石は見つからない。

 俺は確かに冬服のコートにしまったはずだ。それがなぜ? 考えられるのは空を落ちている時か? それとも気絶している間に盗られて?

 どうしよう、いきなりこんなことになるなんて……

おいおい、フルルージュさんよ。離れないといったそばから、無くなるというのはこれいかに?


 落ち着け、俺。ここで慌てても仕方が無いだろ。

 まず物盗りの場合……ってこれはほぼあり得ないだろう。雪には人間の足跡らしきものは見当たらないし。第一、このあたりを見渡しても、木と雪しか見えないから人の通り道って訳じゃなさそうだ。

 ……ってまて、なんだ? この足跡?? よく見たら俺の所へ一直線に伸びているではないか。それが丁度俺の所で止まり、いくつかの足跡を残し森の奥深くへ伸びていた。


 「もしかしなくてもこいつが犯人か」


 こうしてドロボーを捕まえるべく、その足跡を辿って行く。針葉樹が生い茂る中、寒さに震えながら歩いてゆく。

 こうなるって分かってたら、もうちょい厚着してきたのに。フルルージュというのは、俺をいじめるのが好きらしい。出なければ先ずこんな所に突き落としたりしない。


 そんな感じで愚痴りながら歩くと、あるところを境に足跡が無くなっていた。いや、行き止まりにたどり着いた、のほうが正しいか。

 まるで大地が口を大きく開け、闇を飲みこんでいる。そう錯覚する程深い穴。風もまるで来るのを拒むかのように吹いている。

 その深さに、本能的な反射で背筋に怖気が走る。が、目的である足跡の主が見当たらない。

 すると狐にも狼にも似た可愛らしいそれは、目的が果たせたのか、素直に姿を現した。それは可愛らしい目でこちらをじっと見つめており、そうかと思えば咥えていた隕石をそっと傍に置く。か、かわいい。

 だが可愛らしさに絆されないように、隕石を受け取るためにごく慎重に一歩踏み込むが、小動物は警戒心がとても強いのか、逃げるように去る。その後姿は本当に愛らしく、撫でさせてくれてもいいのでは……なんて考えてしまう。

 

 いかん、そんなことより隕石だ。命より大事なこいつを今度は無くさないように、唯一身につけていたショルダーバックに入れる。

 そう、俺はバックを持っていた。なのにいつもの癖でポッケにしまい、あまつさえその存在を忘れていたのだ。

 何という不用意さ。人類の皆様ごめんなさい。何でもかんでもポッケに突っ込む癖は直すから許してほしい。

 一通り反省し、寒さと風がいっそう厳しさを増して、その場を急ぎ後にする。


 こうして最初の地点に何事も無く戻り現在、難をしのげる場所を求め、森の中を歩いていた。

 最初は川を見つけ次第、川下を歩くのも手かと思ったが、こう雪が積もっていては、それも危ない。

 俺の無い知恵を絞った結果、迷子にならない様にもう一人のフルルージュ……ともいえるのか? この物言わぬ隕石を使い、木に目印を付け歩くのがいいだろうと結論付けた。

 しかも俺は運が良いのか、空には雪雲も無く快晴だ。そのおかげで、なんとなくだが位置把握は出来ていた。さっきの大穴の場所は、太陽の位置から考えて北の様だし、正反対の南に向かえば民家もあるはず。


 そう思い、小一時間ひたすら歩いていたら、ちいさな人らしき影を見つけ、思わず大声で呼びかけてしまう。

 自分の状況のおかしさにも気付かずに、だ。


 「おーい!! そこに座ってる君ーっ!! ちょっと聞きたい事が——


 言い終わる前にその人物は、俺を見るや否や、一目散に逃げて行ってしまう。

 しまった。唐突に声かけてしまったか? と後悔しつつ、残された足跡を追ってゆく。

 貴重な第一村人だ、逃してなるものか。逸る気持ちを抑えつつ、先に進むと、そう遠くない場所に民家を発見。思わず安堵のため息が出るが安心するにはまだ早い。

 今度こそはと、玄関扉を軽い調子でノックを二回。緊張した面持ちで待っていると、出てきたのは母親と思しき人と10歳にも満たない可愛らしい女の子だった。

 さっき声をかけたのは女の子だったのか、母親の背後に隠れ、怯えた様子で、その子を庇うように、母親も怪訝そうに俺を睨みつけてきた。


 「私達に一体何用でしょうか? こんな人も通らない場所で。物盗りなら生憎、我が家には何もありませんよ」


 少し震えながら言われた拒絶の一言は、俺を挫けさせるには充分だった。うっ、そりゃそうなるよな、普通。

 完全に初動を間違えてしまった。こんな警戒心バリバリでは、何を言っても胡散臭いだけだ。ではこの場合、どうするべきか。

 そんなのこれしかないだろう。


 「いきなり押しかけてしまい、すみません。最近旅を始めたばかりで勝手が分からず、迷子になってしまった様です。迷惑なのはわかってはいたのですが、この厳しい寒さでつい、お嬢さんに声をかけてしまって申し訳ありません。………迷惑でなければ一晩止めてくださればと思うんです、が………」


 ちょいと言い訳がましくなったが、及第点ではなかろうか。

内心冷や汗をかきつつも挙動には出ないよう、話を続ける。


 「勿論ただで、とは言いません。泊めていただく代わりとしてなんですが、薪割りや家のちょっとした修復とかは結構得意なので是非お任せください!」


 一日一善。これが俺のモットーであり、日課だったのだ。薪割りとか家の修復なら、以前もボランティア活動でしたこともあるし、まぁいけるだろう。そう思い、言ってみたのだが果たして?


 俺の提案にも母親は依然として険しい顔色で、何かを探る様な眼差しを向ける。やっぱりダメか、と諦めかけたその時。


 「貴方の身上はわかりました。困っているのは確かのようですし、たしかにこの辺りは私達の家以外、他にありません。そして、私達親子は貴方を見捨てられる程、強くはないようです」


 「え、では……?」


 「そのかわり、先程言った事きちんとやって下さいね」


 ふわり、と陽だまりのように笑う母親に俺はどっと安心しsてしまい、先ほどまで詰まっていた緊張が息となって外へ吐き出される。そんな俺の様子にさっきまで警戒していた女の子が笑う。


 「よかったね、お兄ちゃん」


 その一言は、辛い事続きだった俺を温めるには十分で、泣きそうになる。


——世界は暖かく優しい。そう改めて思わせてくれた、始まりの出来事だった。

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