VS 魔女っ娘レフィエ+賢者(♂) の絶望 その2

「みたまえ勇者! なんという禍々しさ。なんという美しさァアア!! 私の生み出した!! 究極完全魔法生命体『バティスレフィエ』の姿を!!!!」


「レフィエエエエエエエーーーーーー!!!!」


 オレの叫びが空しくこだまする。禍々しいのはこいつの表情だ。


 完全にイカれている。共に冒険をした仲間……いや、じぶんを好いた少女を研究材料にするなんて。よりにもよって、こんな化物にするなんて……。


「ゆけい! 『バティスレフィエ』! 魔王を倒した勇者を相手に、その力をぞんぶんに見せろ!」


「パイセン。これって……」 


 救いをもとめてオレはパイセンに視線をおくった。


 しかし、だまって首を横に振るパイセン。どうみてもレフィエを救う望みは絶たれていた。いろいろと手遅れだ。


 ……非道極まりない行い。なにが賢者だ! どんなに賢いのか知らないけれども、人の道に外れた目の前の外道を、オレは許さない。


「どうした『バティスレフィエ』! わたしの言葉がきこえないのか! さっさと目の前の勇者を始末しろ! 愚昧なる諸王国を平らげ、いまこそ叡智の光ある我がバティストが世界を征する時が来たのだ! 魔王など足下に及ばぬその力を全世界にみせつけろ! バティストとわたしが世界を従え導くのだァアア!!!!」


 うおい! なんだそのダメすぎる発想! やっと魔王を倒したんだから平和を楽しもうよ! みんなでなかよくしようよ! アントワーヌのときといっしょで分かり易いなおまえ! 権力者の鏡だな!


「ん? どうしたのだ化物。なぎ払え! さっさとやらんか! 『バティスレフィエ』! なにをしている!」


 業を煮やした賢者(♂)が、レフィエの身体を杖で小突いた。


 しかし、レフィエには動きがない。

 その場で――ゴキュゴキュ。と蠢くのみ。


 そうしていると、ブルブルと震えて蛸のような頭部に青白い突起物が浮き出てきた。人の形をしている? 上半身だな……全裸の少女? 


 って……あれ、どうみてもレフィエだ。


「賢者(♂)ォオオオ。聞くがいい。この身体はいただいたァ……クハァ」


「!? まさか! レフィエの魔力はそこまでだったというのか! わたしが植え込んだ合成獣の肉芽をも吸収してしまったというのか? そんなことが……。い、いかん! そうだ、私と……と、共に世界を手にしよう」


「そうね……世界を手にするのはいいかも……ゴキュ」


「あ……ああ、そうだろ? わたしの偉大な知識と君の強大な力があれば、そのようなことは容易いさ、はは……愛しているよレフェイ」


「そう。でもね……。名前まちがえてるよ! わたしだよ。……いえ……いまは、『バティスレフィエ』かな。あなたのお陰でね! うふふふふふアハハハハハ!!」


「い、いやだ、やめてくれーーーーーー!! !? ご、ごぶぁ、べふぅ!!!!」 


 賢者♂を、触手で捻りちぎるバティスレフィエ。

 血液が染みた雑巾を絞るように扱い、投げ捨てた。


 賢者(♂)ざまぁ。悪は滅びた。


「レフィエ! よくやった!」


 オレはうれしくなって駈け寄る。


 もしかして正気を保っているのか? そうに違いない。そんな化け物の姿になってしまったけど……レフィエはレフィエなんだ! 


 方法はわからないけど、なんとかして元の姿にもどしてやるからな! 


「ごぶぉ!」


 おもいっきり触手で殴られた。跳ね飛ばされて壁にめりこむオレ。

 これ、フツーならぜったい死んでいるやつ! パイセンが寄ってきて回復魔法をかけてくれた。


「ちょ、レフィエ! オレはタカユキだよ! ホラ? 覚えているかい?」 


「た……タカユキ? ユウシャ……ユウシャ!?」


 俺はレフィエの元に再び駆け寄った。きっと記憶が混濁しているのに、ちがいない。勇者の俺だと思い出してくれれば、以前のように親しく接してくれるはずだ。俺は信じている。


 おもえばレフィエは出会ったときから素直な子だった。


 出会った当初は「おちこぼれ魔法使い」だと自分を卑下していたけど冒険を通じて成長して、ついには大魔法使いになったんだ。

 なつかしいな……。身体に似合わない、大きな魔法使い帽子を被って可愛らしかったな……。


「そうだよ。勇者タカユキだよ。君といっしょに冒険し――ぶへらっ!!」


「シネ! ユウシャ! シネシネシネ!! シネシネシネシネシネシネ!!!!」


 ドラゴンの尾よりも太い触手の連続殴打。ビタンビタンと殴られる。


 痛ッ! マジで痛い! ちょ、やめて! ほんと死んじゃうから! これ勇者じゃなかったら確実にミンチなやつだから! 勇者だった赤黒い染みになっちゃうから!


「あの魔王を倒した勇者がゴミのよう……アハ、アハハハハハハハ!! あたしTUEEEEEEEEE!!!!」


「あ、あれ……? レフィエ? 君。レフィエですよね? いい娘で素直だったレフィエ……さん、ですよね?」


「この力。ついに得たんだ。さいきょうの力をッ! なんだろう? この心の奥底から沸き起こる衝動は。すべてを消し去れと突き動かす衝動。そうだ! あたしがすべて滅ぼせばいんだ! なんて心地よいんだろう。そうだね……世界滅んでよ。すべて滅んでよォオオオオオオオオオ!!!!」


 己の欲望にも素直だった…………。


 せめて「わたしごとこの化物をたおして!」パターンか? なんて期待したけれども。微塵もそんな素振りはない。


 おもいっきり、全力で攻撃を仕掛けてくる。


 途中から見かねたパイセンが刀1本で防いでいるけど、パイセンだからできる技で普通なら止めようがない。試しに勇者オレが唱えられる最高位雷撃魔法を放ったけど、まるで効き目は無かった。


 なんつー魔法防御力だよ。この魔法で魔王軍四天王を倒したんですけど……「これが、噂に聞く『強さインフレ』というやつなのか……」地味にショック。


「いまの彼女は、もはや貴方の知っている彼女じゃありません!」


「で、でも……そんな」

「このまま放っておくと、世界が滅びますよ」


 世界の命運とかっての仲間の命。それを秤にかけろというのか。これが運命だというのならば、なんという残酷な運命なのだろう。


「レフィエ! 正気にもどってくれ! レフィエエエエエエエーーーーーー!!!!」



 ⭐ 



 サクッと『バティスレフィエ』を斬り捨てた。


「ゴツゴツした、見た目圧がつよい魔物にやられたは過去いません」

「ですねパイセン。逆にぱっと見シンプルなやつだったらといえども、苦戦したかもしれません」

「……そういうものです」

「そういうものですよね」


 みためがシンプルなやつは強い。それが常識。

 現実世界リアルでもそうだ。真の実力者はフツーのおっさん(orおばさん)にしか見えない。

 ソ〇トバンクの孫さんとかめっちゃ強い。仮に街ですれ違っても、誰もなんとも思わないだろうハゲのおっさんだ。でも強い。それが真の実力者というものだ。


 目の前のパイセンも見た目は冴えない団塊だ。でも、世界を相手に一人で無双できる存在。


「それにしてもタカユキさん。かっての仲間……いえ、好意を寄せていたであろう相手に切り替えが早かったですね。お見事でした」


「迷っていてもいいことないですから。放っておいて外に出したら、多くの人が死ぬでしょうし……レフィエにそんなことを、させたくはなかった」


「それでこそ、わたしの見込んだタカユキさんです。貴方には、わたしには無いものがある」


「そうでしょうか? オレの強さなんて、ぜんぜんパイセンには敵わないですし……」


「……とは。だけでは、ない」


 どういう意味なのだろう?

 それっきり、だまってしまったパイセン。


「オレ……なんだか疲れました。いろいろと知りたくなかったです。あのまま元の世界地球で、大人しくアルバイトでもしていたら良かった。こんなことを知るぐらいなら、静かに暮らしていればよかった……。異世界勇者で魔王を倒したという輝かしい記憶を、輝かしいままにして胸にしまっておけばよかった。いまはもう、俺……これからどうしていいのか、自分でも……」



「タカユキさん。諦めたらそこで異世界は終了ですよ」



 ……いや、試合終了ですよみたいに言われても。たしかに安〇先生も見た目フツーのおっさんだけど。めっちゃ強いけど……。


「貴方には、異世界でまだ会うべき相手が残っているはずです」


 だれだろう? パーティメンバーはもれなく全員死んだけど(哀しみ


 ……あ、一人というか、神様だから一はしらか。まだ彼女がいたっけ。オレを異世界に導いた張本人女神が。


 そんなことを思っていると、身支度を整えるパイセン。


「パイセンは何処にいくんですか?」

決着ケリを、つけるのですよ」


 そういうパイセンは、哀しげでどこか苦しそうな横顔で去ってしまった。異世界にオレをひとり残して。

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