38.親交
日が傾き始めた頃、篭いっぱいに色とりどりの糸を抱えて三人の子どもたちが戻ってきました。使い残しをかき集めてきたという風で、麻と羊毛が交ざっています。
その中から麻の細い糸をよりわけて、エレナはじっと思案します。
「こんなに色が不揃いではどうにもならないのではなくて?」
幾分落ち着いたとはいえ、やはり悲観的なことをアルテミシアがこぼします。
「大丈夫です」
それでもエレナは強気でした。皆が見守る中、指を伸ばして地面に波型の文様を書いて見せます。
「ずうっと以前、絵が主流ではないころは、壺には文様が全面に描かれていたそうです。この文様は布地にもよくありますよね」
「ふつうは端に一本とか二本だけど」
「でもこの裾になる部分に入っていてもおかしくないですよね? 単一のこんな縞模様なら糸を代えるのは簡単ですよね」
「……そうね。杼(ひ)に糸を準備しておけばつなげるのは簡単だわ。でも、こんな多彩でどんな仕上がりになるやら」
「良いのじゃないか? 鮮やかで。女神の美貌にはさぞ映えるじゃろうて」
「よし。ハリ、デニス。近所を回って空いてる杼を借りてきてくれ」
「了解!」
再び元気よくハリとデニスが飛び出していきます。ポロとミハイルがさっそくあるだけの杼に糸を巻き始めます。
エレナとアルテミシアが既に織機に張ってある経糸(たていと)の確認をしました。
「もう日が落ちるぞ」
「でもまだしばらくは明るいし。星明りでも十分見えます。できるだけ進めましょう」
「そうね」
エレナの言葉にアルテミシアも同意します。織物は女性の職分です。アルテミシアのように裕福な家の娘ならなおさら、織物の腕が問われるのです。事ここに至ってアルテミシアはようやく腹を決めたようでした。
エレナとアルテミシアが織機の両脇に立ち、経糸の間に杼を通し始めます。
始めはかみ合わなかったふたりの調子が、段々と息の合ったものになっていきます。
端から端へ、手から手へ、杼が受け渡され、白い腕が筬(おさ)を持ち上げ織目を整えていきます。その間にもうひとりの腕が下方の丸棒を動かし経糸を互い違いにしていきます。
そのすべてが無駄のない動きになっていくと、まるで踊りを踊っているような洗練された所作になっていきました。
女神さまは透き通ったまなざしで、二人の少女のたおやかな腕の動きを見つめておられました。
祭りの期間は仕事が休みの子どもたちが家事を担当し、テオが広場の屋台から食事を調達する日々が続きました。
合間合間に休憩をはさみながらエレナとアルテミシアは聖衣を織り続けます。
元のアザミ色の布地は最高級の糸を使用した光沢のあるリネンです。格段に糸の質が落ちることを懸念していたアルテミシアでしたが、色とりどりの縞模様が織りあがってくると仕上がりに満足なようすを見せ始めました。
「悪くないわ」
「うむ。なかなか斬新じゃ」
女神さまも太鼓判を押して頷かれますが、アルテミシアにとってどれだけ説得力があるかは不明です。
少し余裕が出てきたので、休憩時には木陰でミント水を飲みながらエレナとアルテミシアが話す光景をよく見るようになりました。
空いた杼に次の糸を巻きながら女神さまが聞き耳を立てていらっしゃるのを知ってか知らずか、ふたりはどんどん打ち解けていったのです。
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