16.大活躍?

 広場には普段より多くの露店が出ていました。そぞろ歩く買い物客の中にデニスは見当たりません。

 笛をかき鳴らす楽人のまわりで乙女たちが花をまき散らしています。それを眺める人々の中にもデニスはいません。


 競技会に出場する吟遊詩人たちが、竪琴を抱え祭礼の歌を口ずさみながら劇場への道を歩いていきます。彼らの頭上を道なりに沿ってわたしも劇場へ向かいます。


 神殿が建つ丘のふもと、円形に配置された客席の長椅子は、競技会のために集まった見物客で埋まりつつありました。今にも詩人の語りが始まるようです。


 そんな中、舞台の裏の空き地では演劇のリハーサルが行われているようでした。仮面をかぶった人物が大仰な身振りでセリフを話しています。本番で舞台に運び込まれるのだろう道具類もその場にあります。ひときわ大きな壺の後ろから首を伸ばしている小柄な人影があります。

 先ほど陶磁器工房の庭を覗いていたエレナと同じように役者の演技を見ているようです。赤銅色の髪の子ども。デニスに間違いありません。


 確認したわたしは再び上空に舞い上がり、女神さまにご報告に戻りました。

 女神さまは広場を横切って丘への小道にさしかかったところで、息をついておられました。

「大丈夫ですか? デニスは劇場の裏にいましたよ」

「よし、向かうぞ」

 女神さまはぜいぜいしながら小道を走りだしました。


 途中で道からはずれて舞台の裏手へ向かいます。目に飛び込んできたのは、

「デニス!」

 関係者に見付かって咎められているのか、大柄な男性に腕をつかまれ身をよじっているデニスの姿でした。

「いかん。デニスの危機じゃ!」

 女神さまはその場で立ち止まり素早くサンダルを脱ぐと、手に持ったそれをあざやかに二連投なさいました。デニスともみ合っていた男性の側頭部に、サンダルが左右ふたつとも命中します。


 威力はたいしたことはないようでしたが、驚いた男性はデニスの手を放して尻もちをつきました。その男性に向かって突進した女神さまが足の上に乗り上げて頭をぽかぽか殴ります。

「やい、禿ちょろびんめ! デニスに何をするのじゃ!」

「なんだ!? このちんちくりんは」

「誰がちんちくりんじゃあああ!」

 まあまあ。ちょっと落ち着きましょうよ。

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