俺はモブになりたい!~とあるイケメンは高校デビューでフツメンに~

風上 颯樹

第1話 モブを目指す理由

 俺の朝はピピピピという目覚まし時計の音で始まる。


 今の時間は6時半。学校の遅刻時刻が8時15分。いつもはまだ寝ている時間だけど、今日は高校の入学式。いつもより早めに起きることにした。なぜなら、俺はそこで新入生の代表として話さないといけないんだよ。正直言ってめんどくさい。そんなことをしたら絶対目立つ。


 まず、朝起きたら鏡の前に立って寝癖を整える。鏡に映る自分はナルシストっぽくなってしまうが、やはりイケメンだと思う。


 イケメン。それは、その名の優れた容姿を持つ男である。世の中には『ただし、イケメンに限る』という言葉がある位、優遇されている。イケメンがすれば何をしてもカッコいいらしい。俺は、そう思わないけど。ダサいものは誰がやってもダサいのだ。


 まぁ、それによって、イケメンは得すると思われているが、そうでもないのが現状である。イケメンは、その容姿からあらゆる面において、完璧さを求められることも多くない。勝手な推測によって、「スポーツは万能なんだろうな」と思われたり、「勉強は得意なんだろうな」と思われたりする。案外、悪い面も多いのだ。それがプレッシャーになるイケメンは世の中にいると思われる。


 さらに、自分がしたいことを積極的にできなくなってしまう。俺の場合は、好きな漫画、ラノベなど休み時間に読めないのだ。周りは、俺みたいなやつはそんなヲタクっぽいもの読まないだろうと思っているみたいだ。自分の体裁を気にしてしまった俺は、学校で出来る趣味は限られてしまった。


 自分がラノベなどにハマった理由は、主人公が大してイケメンでもないにも関わらず、彼の性格に女子だけでなく、男子も惹かれていくという物語に憧れ、そして自分もこうなりたいと思ったからだ。


 こうして俺は高校デビューをすることにした。それは、モブを目指すというものだ。モブというのはアニメや漫画などで名前がつけられていないキャラクターのことで、会話にすら入ってこない存在。これを目指している。


 理由は様々あげるときりがないので、四つほど挙げようと思う。


 まず一つは、先程挙げたように周りの女子がうるさいから。俺の顔面偏差値はかなり高い。自分で言うのもなんだけど。だから、学校に着いたら周りの女子が頻繁に話しかけてくる。これが本当にうるさい。話しかけてくれるのは嬉しいけど、限度というものがある。休み時間の癖に休めないという状態。そんな状態から脱するため。


 一つは、道を歩くたびに周りの女性の視線が自分に集まること。普通に街中を歩いているだけで、女性の視線が自分に集まる。これは苦手だ。


 一つは、一々告白を断るのが傷つく。ナルシストみたいかもしれないけど、俺は中学校の間告白された回数は数え切れない程だ。後輩から先輩、高校生や違う学校の人まで。それを毎回断るたびに泣きながら走っていく女子生徒を見なければならない。それがかなり心にくる。ほとんどの人が俺がかっこいいからとかいう外面だけで告白してくるといってもだ。


 俺は自分の外面だけではなく、内面も見てほしい。時々俺の性格を見てくれる人も居たが、やっぱり外側しか見ていないような気がしてならなかった。今の自分が恋をするとしたら、自分の性格を見てくれている人だと思う。


 4つ目はもう挙げたが、普通の青春というものを過ごしてみたいからだ。男子校に行けよ!そうゆう問題ではない。恋愛はしたい。ただし、普通の恋愛がしたい!自分を好きになってくれる人は一人でいいし、モブになった自分を好きになってくれる女性なら、自分もきっとその方を好きになる。そして彼女が出来てデートする。そんな普通の青春を過ごしたい。簡単ではないけど、これが最終目標だ。


 俺がモブになるための計画はそんな理由から始まった。その名も『俺はモブ計画』。略して『俺モブ計画』。略す必要ないなこれ。


 この計画が始まったのは、高校生になったら、父さんが部長になったことによって遠くに引っ越すことを知った中学二年生のときだ。ありとあらゆるラノベやアニメ、漫画を読んで見て、研究し、姉にも親友にも聞いた。中学生の実際のモブっぽいなぁと思った人が何をしているのか、失礼かなと思いつつも観察した。


 結果、モブっぽい人は運動神経も平均、成績も平均付近、顔も普通。部活は入っているがレギュラーにはなれない。委員会にも入っておらず、基本目立つことをしない。そんな人だと分かった。


 しかし、モブを目指すに当たって大きな問題にぶち当たった。俺の顔は美形だということ。これは本当にどうしようもなかった。整形するわけにはいかないし。かと言って不審者みたいにサングラスつけて、マスクするわけにもいかない。そこで思いついたのが前髪で目を隠して、マスクをするということ。これが案外上手くいった。別に生活に不自由するほど視界は悪くないし、マスクは自分の地声がばれないし。


 ということで、目は前髪で隠して、口はマスクで隠す。これが最近の俺のファッションだ。正直、これがモブなのかと言ったら微妙な感じがするが......


 そして、受験。これで大きな間違いを起こしてしまった。首席で合格してしまった。これはまずったなと思いましたよ、俺は。だって首席で合格したら、新入生代表の挨拶しないといけないんだよ。それはだって入試だから手を抜くとか出来ないでしょ。だから、本気でやったんだよ、中学首席卒業の俺が。手を抜いて不合格とかになるわけにもいかなかったし。


 結果、俺は新入生代表の挨拶をしなくちゃならなくなったんだよ!だからわざわざ早起きしてるんだよ!準備するために!ちゃんと校長先生に直談判してみたよ。でも、帰ってきた答えは「だめ」この一言。ふざけてんのかジジイ!


 俺の高校モブ生活に早速支障が出ています!


 少しついた寝癖を直し、ぐしゃぐしゃになっている前髪を櫛でそろえて目を隠す。今日の用意は夜にしているから特になし。しっかりと鞄の中に必要な道具があるのか確認してから階段を下りてダイニングに行く。


 階段を降りているとキッチンからお味噌汁の良い匂いが漂ってくる。


「おはよう、父さん、母さん」


「おはようございます、しゅんさん」


「おはよう、しゅん


 母さんはキッチンに、父さんはダイニングの椅子でスーツ姿で新聞を読んでいた。


 しゅんとは俺のことだ。俺の名前は桜木俊さくらぎしゅん。モデルにスカウトされるくらいイケメンだったが、今はモブを目指している新高校一年生だ。


 何故自分の母親が息子に対して、丁寧語なのか不思議に思っているかもしれないが基本母さんは丁寧語だ。もちろん、最初は血が繋がっていないからだとも思っていたが、実の娘に対してもこうだった。


 俺の家族桜木家は6人家族だ。俺、実の父、実の弟、義理の母、義理の姉、義理の妹二人だ。父さんと母さんが結婚したきっかけは父さんは妻を、母さんは夫を同じ飛行機事故で亡くした。そのとき俺はまだ物心付く前だったので実の母を写真でしか見たことがない。


 それが理由だったのか俺たち5人兄弟は特に気まずくなることなく生活できている。今ではもう仲良しだ。


 俺はいつも通り椅子に座って朝食を食べる。この桜木家では朝ごはんは和食が多い。


 しっかりと噛みながら、出来るだけ早く食べる。食べ終わったらもう7時になっていた。今日は7時半に来るように言われている。学校まではあるいて15分くらい。出来れば10分前くらいには着いておきたい。


 走ることはせず、少しスピードをあげて準備する。ご飯を食べ終えたら歯磨きして、制服に着替える。朝食食べる前にやっとけと思うかもしれないけど、歯磨きした後になんか食べると変な味するし、制服汚れるかも知れない。だから、朝食後だね。


 制服に着替えて家を出る。


「行ってきます!」


 今日から俺のモブ高校生活が始まるんだ!


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