蒼士と私

高峯紅亜

蒼士と私


 放送が流れた。


『この室内にいる二人のどちらかが死ぬことになります』


 私は向かい側に座る蒼士そうしを見た。

 彼も私を見ていた。


 ***


 私たちは三年前大学で出会った。同じサークルに所属し、すぐに意気投合した。

 っていうか、私が一目惚れしてアタックした。

 カッコよかった。まあ今もだけど。カッコいいの、本当に。


 蒼士は恋愛とか女子とかに興味がないのか人間として素っ気なかった。女子と必要以上に関わろうとしない。なんだか影があるっていうか......。

 でも私はそんな蒼士が大好きだった。

 向こうは全く意識してなかっただろうけど二人で出かけたし、電話もしたし、彼の家にも遊びに行った。

 蒼士からしたら私はただの仲の良い女子友達だとしか思ってないんだよね。


 蒼士は私のこと好きでもないくせに、優しくしてきた。

 私が相談ごとをすると必ず話を聞いてくれた。

 私が泣いていると、どうしたの?と心配して声をかけてきた。

 いつでも笑わせてくれた。

 基本どうでもいいって思ってるくせに気遣ってる風に装っていた。

 私の目は節穴じゃないからそれくらい見抜けるわ。


 別に好きじゃないならそんなことしないんじゃないの?冷たくするんじゃないの?

 その方が簡単に諦められたのに。私に変な期待心持たせて......。


 いつしか蒼士は私にこんなことを言った。


陽葵ひまりって純粋だよね」


「なにそれ」


 私はアハハと笑った。

 それに蒼士はこんなことも言った。


「陽葵には冷たくできない、っていうか他の女子と違う。なんか守りたくなる」


「変なの」




 あれは暑い暑い夏の出来事だった。


 私は蒼士に自分の気持を告白した。


 もちろん、フラれた。


 自分でもわかっていた。


 しかし蒼士は最後に言った。


「でも陽葵との関係は途絶えさせたくないし、友達でいたい」


「分かった」


 私のことなんてどうでもいいくせにこんな事言っちゃって。

 面倒くさいって思ってるよ絶対。変に気遣わないでほしい。


 でもこんなに人をブレずに真っ直ぐ好きでいられたのは初めてだった。


 ***


 私たちは深海のように静まり返った部屋でしばらく見つめ合った。

 沈黙を破り、蒼士が言った。


「俺逝くよ」


 そう言うと思ったけど、なんで。どうして恋愛感情を抱かない人にのに自分の命を捧げるんだろう。私は絶対そんなことできない。男の本能なのだろうか、女を守るって。


「私は蒼士に死んでほしくない。だって私は蒼士のこと大好きだもん」


『好き』と言うのに抵抗は全く無かった。慣れてしまった。


「私が仮に蒼士の彼女で、蒼士にとって私がかけがえのない存在っていうならそうや

 って言うのかもしれないけど、私はただの友達でしょ?自分のこと大事にするのが

 普通じゃないの?私は蒼士が好き、大好き。だから私は蒼士に生き残って欲しい」


 なにこれ。

 私は内心そう思っていた。全米が泣いた!みたいなワンシーンじゃん。

 蒼士は立ち上がると一言吐き捨てた。


「まじかよ」


「なに?」


「俺、陽葵がそんなこと言う人だと思ってなかった」


 なんだ。そんなことか。まだ俺のこと好きだったんだ、って言うのかと思った。


「うん、言うよ。だから私が死ぬから、蒼士はちゃんと生きて、私の分も」


 私はそう言うと立ち上がり蒼士と顔を合わせた。身長の高い彼は私を見下ろしている。


 すると蒼士はあり得ない行動に出た。手元で禁断の赤いボタンを押した。


 咄嗟に彼の名前を叫んだ。


 しかしもう遅かった。


 蒼士の真横からヒュンと音をたてながら長い矢が飛んできて彼のに突き刺さった。


「陽......ま...り......」


 蒼士は心をナイフでえぐられたように顔を歪めるとドサッと倒れた。


「い......いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 私は絶叫しながら蒼士の元に駆け寄った。

 意識が遠のいているのか、蒼士の目は虚ろだった。


「蒼士!蒼士......!」


 彼の身体を揺らしたが何の反応もない。


 なんでさっさと先にボタンを押さなかったのだろう......。

 心を引き裂くような後悔の念が私を襲った。

 どうせ私の事好きでもなんでもないのにどうして。どうして私をかばうの。

 しかも蒼士の最後の言葉は私の名前だった。


 蒼士の傷口からは気の遠くなるほどの血が溢れていた。


「なんで......なんで蒼士が死ななきゃいけないの......」




 天井を見上げると一筋の涙が蒼士の顔へと垂れた。






完 

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蒼士と私 高峯紅亜 @__miuu0521__

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