チャプター9:DBC

 DBC。正式名称はダックグリーン・ブロードキャスティング・カンパニー。


 新進ネットワークと言われる世界でも有名な放送局の一つ。その本社がこのウェアムシティに存在する。


 10階立てのビルで屋上にはDBCという文字の看板が特徴的で、入り口付近には噴水広場がある。3メートルほどのアオクビアヒルの巨大モニュメントが噴水の中央に位置し、その存在感を放っている。


 そんな広場に、一人の少年がDBCビルを見上げている。


 少年は茶髪で、服装は白と青の線が交互に入ったデザインのボートネックTシャツの上に黒いステンカラーコートを羽織り、薄茶色のズボンを着用している。肩には黒色のショルダーバックを掛けていた。顔つきは童顔寄りに見えるが、目つきの鋭さのせいか童顔のイメージとは少し離れてしまっている印象を感じられる。


 茶髪の少年・・・・・・フェイク・フィッシャーは携帯で時刻を確認する。13時半を過ぎた頃だ。そのまま携帯を操作し、SNSのアプリを開く。そのままザックとの個人チャットを開いた。


『ピンクシールに会えるかも。14時にDBCのビルに来て』


 今朝のことだ。今日は休日でピンクシール探しでも考えていた矢先に、ザックからその連絡が来ていた。

 昨日ヒーロー探しは一人でやることにするという話をしたばかりで、どういった心境の変化だと思い『どういうことだ?』『なにかそこであるのか?』とすぐに返信をしたが、今の時間まで返信は来ていない。無論電話もしてみたが、繋がってはいるのだが気付いていないのか、中々出てきてくれない。


 フェイクも自分で調べてみたが、今日DBCの方でそれらしいイベントのスケジュールは確認できず、念のため番組表でピンクシールと結びつきそうなものはないかと確認したが、やはりこれだと思えるものは見当たらなかった。


 しかしザックが嘘をつくとは思えない。とにかく14時に着くように行動を開始したが、少し早めに着いてしまった。フェイクは個人チャットで『今、DBCビルの前にいる。どこに行けばいい?』と連絡してから、ビルを見上げた。


 特徴的な看板を除けば、外見は他の企業ビルと大差ないビルだ。見上げたことで自然とビルよりも上の空を見てしまう。

 雲一つない快晴。気持ちの良いくらい青の空だった。ピンクシールがビルの上を飛んで渡っていたら、すぐにわかってしまうだろうなと思っていると、携帯が鳴る。ザックからだ。


『早いね。なら、ロビーの受付の人に声を掛けて。君の名前を言えば、すぐに案内してくれる』


『待て、色々説明してくれ。今は電話できないのか?』


『できない。私は今ビルの中にいるから、そこで詳しく話をしよう』


『・・・・・・わかった。とりあえず、受付の人に俺の名前を言えばいいんだな?』


『それでいい。待っているよ、フェイク』


 連絡を終えて、フェイクは「名前を言えばいい、だって?」と驚く。最近でも見かけない映画のワンシーンみたいだ。それができるザックはDBCの偉い役柄の人の縁者なのか? と疑問を抱く他ない。色々な推察をしてしまうが、それよりも直接話をし方が早いと考えを切り替え、すぐにビルの入り口から中へと入っていった。


 1階ロビーに入ると、真正面に2階に続くエスカレーターが見え、その脇に受け付けがあることがわかった。


 フェイクは早速受け付けに向かう。途中に右と左の壁際に待合いのソファーと机があり、数人の社員と思われるスーツの男性や女性の姿が確認できる。疲れているのか皆項垂れており、会話が無い。それに皆頭に白い布袋のようなものを被っていることがわかった。


 フェイクは被っているものが気になったが、あまり見ていては失礼だと思い、できるだけ見ないように受付の方へと足を進めた。


 しかし受付に着いて、フェイクはぎょっとする。


 項垂れた姿勢で、白い覆面を被った受付嬢がそこにはいた。


「・・・・・・」


 フェイクは思わず動きを止め、じっと見てしまう。受付嬢は目の前にフェイクが来ているのにも関わらず、何も反応を示さずこちらを向いているだけだ。覆面で顔が隠れているせいで、表情は窺えない。


 覆面を見ると、赤いペイントで星形のマークが描かれていることがわかる。同じマークか確認できていないが、おそらく先ほどの待合いに居た社員達と同じ覆面かと思われる。


 社風というには、悪趣味が過ぎるという感想しか出てこない。ほんの少しの不安と警戒がフェイクの心に生まれる。フェイクはそれらの感情を振り払うように、もう少しだけ受付カウンターに近づき、声を掛けた。


「あの、すみません」


 フェイクの言葉に、受付嬢は反応しなかった。声が小さかったのだろうかと思い、今度は大きめの声で同じ言葉をかけた。すると今度は項垂れていた首を少し上げた。


「名前を」


 小さな呟きだった。か細くて、無気力な声。覆面をしていることもあって不気味に感じた。受付嬢はそれだけ言って、黙ったままだった。


 名前を言えば、案内してくれる。先ほどのザックのチャットでそう言っていた。名乗っていいのか? と思わせるくらい、受付嬢の対応は常識的ではない。


 だが、ザックはこのビルにいる。それもピンクシールとの会合ができる可能性があるという話もある。帰るという選択肢を取るのは、あまり考えられなかった。


 フェイクは覚悟を決め、恐る恐る自分の名を口にした。


「フェイク・・・・・・フィッシャー」


 途端に、受付嬢にわかりやすい反応があった。項垂れていた首がスッと上がり、はっきりとこちらに顔を向けていた。


「フェイク、フィッシャー……様、ですね?」


 受付嬢は座っていた椅子から立ち上がり、カウンターの外に出る。同時に何か動く気配が後ろからした。


「えっ・・・・・・?」


 フェイクは振り向くと、待合いのソファーで座っていた社員達だ。やはり皆例外なく星形のマークが記された覆面をしている。ぱっと見て10人ほどの数だと確認すると、そこでフェイクは自分が覆面達に囲まれていることがわかった。

 覆面の受付嬢は左腕でエスカレーターの方を指し、こう言った。


「5階のスタジオに案内いたします。そこで、私達の友人が貴方様をお待ちしております」

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