女の子になりたい男の子とデートした話
もおち
第1話
キラキラとした日差しの中、私はアキと歩いていた。舗装された道の上に私とアキの、それから周りを歩いている人たちの足音がマーチを演奏している。
「ありがとう」
ふと、アキが言った。
「ん?」
「服も、化粧も、ウィッグも、全部用意してくれてさ」
ああ、と私は笑う。
「お礼なら、お姉ちゃんにも言ってあげて。それ全部、お姉ちゃんのお下がりだから」
「うん。あの人にも、言うよ」
アキがふんわりと笑った。蕾が花開いたような、綺麗な笑顔だった。
「ねえ、あの髪の長い子かわいくなかった?」
「そうだね。カワイー」
通りすぎていった二人組の女性たちが、そう話している聞こえた。
アキの姿は、長い茶色の髪に、花柄のトップスにフレアのスカート。黒のタイツに包まれた足は、ワンポイントのついたパンプスを履いている。
贔屓目に見ても可愛い。とても可愛い。
「あ、ここだねお店」
しばらく歩き進めれば、目当てのアパレルショップにたどり着く。中に入るとショップ店員と色とりどり形さまざまな服が私たちを出迎えた。
「うわあ・・・・・・!」
アキが感嘆の声を上げた。無理もないだろう。初めて店頭で服を見るのだそうだ。
そう、初めて。
「なあなあ、どっちがいいと思う?」
アキがそう私に訊ねた途端、店員の目がいぶかしんだのが分かった。
私は言う。
「アキ、その男口調、直さないと彼氏にまた言われるよ」
慌てず、騒がず、やれやれと呆れながら。まるで日常茶飯事とも言わんばかりに。
店員の目が、元に戻った。
「ご、ごめん・・・・・・」
しゅん、とアキがしょげた。私はよろしいと言う風に笑うと、アキが持っている、服の片方を指差す。
「そっちがいいよ」
「そっか!」
アキの顔が綻んだ。かわいい。
ーー
アキと出会ったのは、コスプレイヤーの姉の忘れ物を届けに行ったイベント会場だった。
アキはコスプレイヤーだった。詳しく言えば初心者の。姉に言わせれば、「それで会場に来た勇気だけは称賛したい」というくらいの酷いものだったそうだ。
姉の指定した場所に行けば、見知らぬ男の子がいた。そう、男の子。
それが、アキだ。
「今時、男の子の女装なんて、珍しくないって言ったんだけどね」
おとこのむすめって書くの、知ってるでアニメしょ? そんなことを言いながら、私の持ってきた荷物をさっさかさっさか取り出して、アキに施していった。
出来上がったアキは、私の知らないキャラの女の子の格好をしていた。可愛かった。
「・・・・・・・」
じっと、自分の出来上がった姿を鏡で見ていたアキだったが」、やがて、目を潤ませ始めた。
「わ、わるい・・・・・・! すんませ・・・・・・!」
涙を袖でぬぐいながら、アキは謝った。ずっとこんな格好がしたかったのだという。こんな女の子の格好が。
まあ、それはコスプレ命な姉が「袖で拭かないで! 衣装は大事でしょうが!」と叱責してからだったが。
ーー
そんなこんなで、私たち姉妹とアキの関係が深まった。
今日は通販しか女の子の服を買ったことのないアキのため、店頭で直接見に来た。姉は仕事の関係で欠席だ。よく思うのだが、イベントに行って、オフ会に行って、仕事に行って、姉は休んでいるのだろうか。
「なあー」
試着室の中にいるアキが外の私に声を掛けた。
「なあーにー?」
「ちょっと見てくれるー?」
いまだに口調が不安定だが、アキは頑張っている。ずっと一人で、悩んで、足掻いてたから。あの涙だって。そうだ。
「しっつれー」
私は一言言うと、カーテンをゆっくり開けた。
「・・・・・・」
「・・・・・・ど、どう?」
不安そうなアキに、私は笑顔で答える。
「さすが私、見立てがいい」
そして、付け加える。
「あと、モデルがいい」
アキが目を大きく見開いた後、私に腕を伸ばし、私に抱きついた。
「お、ん、どうしたの?」
「ごめん泣く。ちょっと隠せ。服汚したら怒られる」
直情的なアキ。泣き虫なアキ。
そんなアキを、私は男としても女としても見ている。まあどっちだっていい。
だって、アキはアキなのだから。
アキが落ち着くまで、私はわずかばかり筋肉質な腕に抱き締められた。
女の子になりたい男の子とデートした話 もおち @Sakaki_Akira
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