孤独の魔女

@amondemon

第1話

彼女が異変に気付いたのは6歳か7歳頃だったと思う。

天涯孤独の、浮浪児。

珍しくもない話が、その異変に気付く事を遅らせた。

浮浪児故に、人を寄せ付けぬ姿勢が、この時ばかりは良い風に作用したのだと、彼女は今になって思う。

それは気まぐれだった。

褒められた方法ではないが、その日はすこしばかりいつもより多くの食糧を手にいれる事に成功した。

暑さに露天商の気が散漫になっていたのが幸いしたのだが・・・。

その多めの食糧を、同情から迷い犬にくれてやった。

似た者同士が、仲良くなるまでにさして時間はかからなかった。

そう、彼女がその犬を、抱き寄せるまでは!


誰が分かっただろう。

彼女がその手に抱く者たちの命を苦痛なく奪う力があったなどと。

生まれがら父母の命を奪い、姥の命を奪い、天涯孤独に身を落としたなどと!

そして彼女は人を避け、生き物を避け、とある滝の裏に隠れ住むようになった。


時は流れーー。


彼女の元には安楽死を求める人々が一人、また一人と集うようになった。

彼女は泣きながら、死を求める人を優しく抱き締める。

人々は感謝の涙を流しながら、彼女の身体に手を回すーー。

彼女に名はない。

人々は彼女を「死の抱擁」と呼ぶ・・・。

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