2ページ
「ごめんなさい」
少しして落ち着いたのか、小さく謝罪の言葉を溢して鼻を啜った。いつも美しくメイクアップされている目元は少し黒く崩れていた。
「どうしたんですか、何かあったのですか?」
突然泣き出すほど悲しいことがあったのか? 担当している客を奪われたとか、なんかそんな、
「嬉し泣きで」
「え」
思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは、俺が悪い訳じゃないと思う。だって誰がまさかあの泣き方で嬉し泣きだと思うのさ。
「実は昨日」
「き、昨日?」
「親友の、結婚式があって」
まだ赤い瞳で今度は恥ずかしそうに答える。
「情緒不安定とかじゃないんですよ。その、昨日のことを思い出したらなんかグッときて」
親友の結婚式を思い出してあんなに大号泣していたってわけ?
「あの子は、私のただ一人の親友なんです」
グラスに入ったミネラルウォーターを一口飲んで深い息を吐いた彼女が言った。
「私、こんなでしょう? 頭も悪くて勉強もダメだし、身体を動かすのも苦手だし、得意なのは喋ることだけで。この仕事自体は楽しいし、私に合っているって思うけど、他の人はそう思わないでしょ? 特に田舎の年寄りなんかは」
夜の仕事に良い顔をしない人は未だに多い。どんな心持でどんな仕事をしているかも知らないのに。
「地元では色々言われていることも知っているけど、あの子だけはずっと私の見方でいてくれて。嬉しい時も愚痴を聞いて欲しい時も傍にいてくれて。そんなあの子が結婚するってなって、一番に旦那さんを紹介してくれたんですよ私に。一緒に食事をして、その人も本当に良い人で、凄いお似合で。結婚式も・・・絶対に呼んでもらえないって思っていたけど、ちゃんと呼んでくれて、本当に嬉しくて。こんな私に勿体ないくらいの子で」
アオイさんは今まで見た一番幼くて純粋な表情で微笑んだ。心から嬉しいと、誰が見ても分かる表情で。
「素敵なお友達ですね」
「えへへ、そうなんです。一生大切にします」
まるで新郎のようなセリフを口にして「あ、昨日の写真みます?」と返事をする前にスマホの画面を見せて来た。
そこに写っていたのは同じような満面の笑みでピースサインをする花嫁とアオイさん。
二人とも本当に綺麗で、会場を彩る花のように美しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます