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「ごめんなさい」

 少しして落ち着いたのか、小さく謝罪の言葉を溢して鼻を啜った。いつも美しくメイクアップされている目元は少し黒く崩れていた。

「どうしたんですか、何かあったのですか?」

 突然泣き出すほど悲しいことがあったのか? 担当している客を奪われたとか、なんかそんな、

「嬉し泣きで」

「え」

 思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは、俺が悪い訳じゃないと思う。だって誰がまさかあの泣き方で嬉し泣きだと思うのさ。

「実は昨日」

「き、昨日?」

「親友の、結婚式があって」

 まだ赤い瞳で今度は恥ずかしそうに答える。

「情緒不安定とかじゃないんですよ。その、昨日のことを思い出したらなんかグッときて」

 親友の結婚式を思い出してあんなに大号泣していたってわけ?

「あの子は、私のただ一人の親友なんです」

 グラスに入ったミネラルウォーターを一口飲んで深い息を吐いた彼女が言った。

「私、こんなでしょう? 頭も悪くて勉強もダメだし、身体を動かすのも苦手だし、得意なのは喋ることだけで。この仕事自体は楽しいし、私に合っているって思うけど、他の人はそう思わないでしょ? 特に田舎の年寄りなんかは」

 夜の仕事に良い顔をしない人は未だに多い。どんな心持でどんな仕事をしているかも知らないのに。

「地元では色々言われていることも知っているけど、あの子だけはずっと私の見方でいてくれて。嬉しい時も愚痴を聞いて欲しい時も傍にいてくれて。そんなあの子が結婚するってなって、一番に旦那さんを紹介してくれたんですよ私に。一緒に食事をして、その人も本当に良い人で、凄いお似合で。結婚式も・・・絶対に呼んでもらえないって思っていたけど、ちゃんと呼んでくれて、本当に嬉しくて。こんな私に勿体ないくらいの子で」

 アオイさんは今まで見た一番幼くて純粋な表情で微笑んだ。心から嬉しいと、誰が見ても分かる表情で。

「素敵なお友達ですね」

「えへへ、そうなんです。一生大切にします」

 まるで新郎のようなセリフを口にして「あ、昨日の写真みます?」と返事をする前にスマホの画面を見せて来た。

 そこに写っていたのは同じような満面の笑みでピースサインをする花嫁とアオイさん。

 二人とも本当に綺麗で、会場を彩る花のように美しかった。

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