救済マンション

大瑠璃

0日目

 ーーー次のニュースです。昨日、Y県K市在住の真野裕也さんが行方不明になりました。今回も連続失踪事件と関連があるとみられており、行方不明者は73人目にのぼります。依然捜査は難航中でーーー。


 こんなニュースは何度目だろう。もう聞き飽きてしまった内容を聞き流しながら私は朝食のトーストを齧る。


 3ヶ月前、ある行方不明者のニュースがあった。誰かに殺されでもしたのだろうかと思い、その時は皆なんとも感じなかったが、それが2、3日、1週間と続き、流石に何かがおかしいと思った。でも原因が分からない。ましてや皆自分がそうなるわけないと思っているのだから1ヶ月後にはもう世間の関心は薄れていた。もちろん私も例外ではない。

 もう、そんなことはどうでもいいのだ。


「いってきます。」

 私はひきつった笑顔で母に声をかけて家を出る。


 重たい扉の閉まる音を聞いた途端、私の表情は死ぬ。

 また地獄のような1日が始まるんだ…。




 教室にはもうあの顔ぶれが揃っていた。

「おはよぉ北見さん、あれ?どーしたのその机。なんか大変だねぇ。」

 悪意のある笑みを浮かべ、新田明美は声をかけてくる。後ろで2、3人の女子がニヤニヤしている。

 言われて自分の机を見ると机いっぱいに思いつく限りであろう暴言が書かれていた。これだっていつものことだ。

「お、おはよう。ありがとうわざわざ教えてくれて。」

 私は感情を必死に抑えながら言葉を返す。私は鞄を置いて雑巾と消しゴムを取りに行った。






「はぁ…。」

 今日もいつもと変わらずつらい一日だった。また物を隠され、そのせいでこの状況を知らない先生には物もきちんと持って来られない劣等生だと思われている。昼休みくらい逃れたいと思ってトイレにいたって、個室の前で戸をドンドンと叩き、早く出てこいとどやされる。

 彼女たちが何をしようと、皆怖がって告発なんてしてくれない。

 つまりもう卒業を待つしか無いのだ。


「ただいまー…。」

 帰るとすぐにお母さんがやってきた。

「おかえりなさい、あなた宛に何か届いてたから部屋に置いといたわよ。」

「はーい…。」


 何が届いたのだろう。疲れ切った体で部屋へと上がっていく。


 確かに机の上堅苦しい様式の封筒が置いてあった。見ると差出人として救済マンションと書かれている。なんてふざけた名前の差出人だろう。

 そんなことを考えながらも私の手は好奇心から封筒を開いていた。

 中には1枚の紙が入っているだけだった。困惑しながらも中を読んでみる。




 救済マンション入居ご当選のお知らせ


 北見奈々様、この度は救済マンション新規入居者抽選にご応募いただき誠にありがとうございました。

 この手紙を読まれました翌日、お迎えに上がります。

 身構えて待つ必要はございません。普段通りの生活をしてお待ちください。


                            救済マンション管理人




 たったこれだけしか書かれていなかった。

 こんなもの応募した覚えは無い。しかし確かに私の名前が書かれていた。

 それに明日入居だなんてなんて急な話だろう。こんなのできるわけないし、きっと誰かのいたずらだろう。

 なんだ、結局どうでもいいものだった。


 と、落胆した私にどっと疲れが押し寄せた。いつものように体を休めた。






 土曜日、今日はあの地獄がない日は私にとって唯一の心休まる日だ。

 いじめのきっかけになった部活は辞めた。

 のんびりできると思っていたところにお母さんが声をかけてくる。


「今日は病院行ってきなさい。学校で受けられなかった検査あるでしょ。市立病院の予約しておいたからね。」

 そういえばそうだったか。深くため息をついて外出の支度をしていく。






「はい、これで検査は終わりです。あとは簡単な診察だけですからね。」

 看護師さんは私を連れて診察室に向かう。


 診察の内容は確かにとても簡単だった。早く帰れそうだと安堵した矢先、医者は少し顔をしかめて少し考え、「もう一つだけ検査をしましょう。」と言った。また面倒なことにならなければいいが…。


 また移動して検査室のベッドに横たわる。

 追加の検査は麻酔を使うらしい。だんだん眠たくなってくる。そういえば検査内容を聞いていなかったな…。

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