PPPの一存

のぶ

反省するPPP

 「過去を振り返ってこそ、未来が開けるのよ!」


 プリンセスが、いつものようになにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。

 

 いつもの練習終わり。練習場の片付けを終えて、ちょっとだらだらする時間だ。

「プリンセスぅ、練習の反省会ならあとにしようぜー。」

イワビーがごろんと横になってストレッチをしながら言った。

「だめよ。振り返りは練習直後にやらないと意味がないわ。」

「でも、お腹空いたよー。」

フルルも訴えるが、プリンセスは聞く耳を持たない。

「次のライブまで時間が無いんだから、気を抜いていられないわ。1人ひとことずつ、今日の反省を言ってちょうだい。じゃあ、ジェーンから。」

プリンセスはそう言って、ジェーンを指さした。

「えっと、一生懸命頑張りました。」

「ジェーン、なんかこう、もうちょっと具体的な反省点はないの?」

プリンセスの表情が険しくなる。

「具体的な反省点...。あ、コウテイさんの太ももが今日も素敵です!」

...どこを見てるんだ、ジェーン。

「まあでも、今日の練習はいつものレパートリーばかりだったし、特に言うこともないんじゃないかな。」

 これは私の本音だ。

 歌も踊りもてんでバラバラだった結成当初に比べれば、ずいぶん良くなったと思う。

「確かになー。でも、なんか新しい変化があるといいよなー。」

イワビーが伸びをしながら言った。

「たとえば?」

「フルルの髪が伸びる。」

「誰だか分からなくなりそうだな。」

「そして、ツインテールになる。」

「私と見た目がかぶるじゃないの!」

プリンセスが少し怒ったような調子でツッコむ。

「じゃあ、ポニーテールになる。」

「フルルさんのポニテ。うなじ。...ふふふ。」

 なんか、今日のジェーンは変態さんモードだな。

「私、そんなにすぐ髪伸びるかなー。」

フルルはのんびりと言って首を傾げている。

「衣装も変えるか。プリンセスもコウテイと同じ衣装になる。」

「なんでよ!」

「いいと思うぜ。同じペンギンでも、体つきが違うっていうことがよく分かって。」

イワビーはプリンセスの主に胸のあたりを見ながら言う。

やめたげて。プリンセスも案外気にしてるから...。

「あとは、次のライブでゲストを呼ぶなんてのもありだよな。」

「ゲスト?トキとか?」

「いや、ハシビロコウ。」

「なにをさせる気だ?」

「ステージ上から観客をじーっと見つめてもらう。いつも俺たちが観客に見つめられてるからな。たまには逆にしてみたらいいんじゃねえかな。」

イワビーがニヤニヤと笑いながら言った。

「ハシビロコウさんに見つめられて、頬を染めるコウテイさん。そのうち2人は見つめあって...。いいかもです。」

ジェーンがいよいよ壊れてきたよ。

「歌を全曲マーゲイの声真似でやるのはどう?」

「もはや私たちの出番すらないのね。」

フルルの提案にプリンセスが呆れた様子で言った。

「み、みんなで空を飛ぶ。」

ジェーンも意見を出した。

「あなた、やってみなさい。」

プリンセスが冷え冷えとした声で言った。

「あーー、もう。どうしてあなたたちは真面目に考えないのよ!ちょっとはまともな意見出しなさい。」

ついにプリンセスがキレた。

「まあまあ、そう怒るなよ。」

私がなだめても、プリンセスはそっぽを向いてしまう。

「ほら、じゃぱりまんでも食べて。プリンセス。」

フルルが食べかけのじゃぱりまんを半分プリンセスに渡した。

「ふん。食べ物で機嫌直そうって言ったって、ダメなんだからね…って、このじゃぱりまんそもそも私の分でしょ!」

「お腹空いたから、ちょっと食べちゃった。ごめんね。」

フルルがニッコリと笑って言ったが、プリンセスの怒りは頂点に達した。

「むきいいいいい!もういいわ。好きにしなさい!」

プリンセスは叫ぶと、練習場を出ていった。

「あーあ。また怒らせちまったぜ。」

「ちょっと申し訳ないことしましたね。追いかけますか?」

「いや、しばらくそっとしておこう。あと、フルルはプリンセスの分のじゃぱりまん食べたから夕食は半分な。」

「えーーーー。」


 基本的に食事はメンバー全員で食べることにしているが、プリンセスは食堂に現れなかった。

 食後、私はふと思い立って、ステージそばの桟橋の方に行ってみた。プリンセスは1人になりたい時にはたいてい桟橋の端っこに腰掛けているのだ。

 桟橋を少し歩くと、やっぱり、いつもの場所にプリンセスがいた。

「プリンセス、まだ怒ってるのか?」

 私が声をかけると、プリンセスが振り向いた。

 心なしかその目が潤んでとろんとしており、頬に赤みがさしている。

「ってお前、飲んでるのか。」

 プリンセスの傍らには中身が半分くらい残った獺祭の瓶が転がっていた。

「ひっく。もう、ほっといてよ。」

「プリンセス、アイドルがオキアミをつまみに酒を飲むのはどうかと思うぞ。」

「どーせ私はヤケ酒ペンギンでしゅよー。」

 言いながら、プリンセスはコップに酒をつぐ。ぐでんぐでんに酔っ払って呂律が回っていない。

「はあ...。しょうがない、少し付き合うよ。」

 私はプリンセスの隣に腰を下ろした。

「あら、別に無理しなくてもいいわよ。1人でも、しゃびしくないもん。ひっく、うぃー。」

「飲みすぎだろ。」

 きっとこんなことになるだろうと思って持ってきていたコップを取り出して、私も酒を少しだけ注ぐ。

「ねえ、コウテイ。どうして私はみんなにいろんなこと押し付けちゃうのかしら。」

 プリンセスが頭を私の肩に乗っけてつぶやいた。

「そんなことないさ。今日はイワビーもフルルもジェーンも練習で疲れてたんだよ。みんなだって、次のライブをいいものにしたいって思ってるよ。」

「はーあ、ホントは一番のダメペンギンは私なのにね。いつも偉そうにして。」

「なに言ってるんだよ。プリンセスがいないとPPPは成り立たないだろう?」

「でも、3人ともみんな歌も踊りもどんどん上達してる。楽屋でもいつもあの3人で遊んでるから、息ぴったりだし。」

「私は?」

「コウテイはコウテイ。元から上手よ。」

 そう言って、とろんとした目つきで、プリンセスが私の顔を覗き込む。

 私はプリンセスの潤んだ瞳を正面からじっと見つめる。

「ねえ、コウテイ。私、なんだかあなたに恋しそうだわ。」

 プリンセスはそう言って、唇を寄せてきた。

 私はプリンセスの華奢な体を抱き寄せ、その唇に顔をそっと近づけて...


「あー、コウテイとプリンセスがイチャイチャしてるー。」


 突然、背後からフルルののんびりした声が響いた。

「ヒャッホウ!コウテイさん、もうそのまま押し倒しちゃってください!!!」

ジェーンが感極まった様子で叫んだ。

「いや、邪魔するつもりはなかったんだけどなー。」

イワビーも頭をかきながら現れた。

3人とも、近くの杭の陰から見ていたらしい。

「ちょっと、あなたたちいつから見てたのよ!」

慌てて私の背中に絡めていた腕を離し、プリンセスが焦りを隠せない様子で言った。

「ヤケ酒ペンギンのあたりから。」

「ほぼ全部じゃないの!」

プリンセスは顔を真っ赤にして叫ぶ。

「ねえ、プリンセス。そんなになんでもかんでも背負い込まないでよ。」

フルルがプリンセスの目をまっすぐ見据えて言った。

「そうだぜ。俺たちにはまだまだプリンセスの指導が必要だし、プリンセスも俺たちから、楽しく気楽にやっていくやり方を学んだほうがいいと思うぜ。」

イワビーが笑いながら言う。

「PPPは5人揃ってこそのPPPですよ。」

ジェーンも優しくつぶやくように言った。

「あなたたち...。」

プリンセスはじわりと溢れてきた涙を拭った。

「そうね。5人揃って、最高のステージを作りましょう!」

「「「「おーーー!」」」」

今日一日で、一番声の揃った瞬間だった。


「ところでイワビー。その、ポケットに隠し持っているカメラはなんだ?」

「え?い、いや、そのー。」

「マーゲイが、コウテイとプリンセスの百合シーンを撮ってきたら、ギャラの配分多くしてくれるって言うから...。」

「わー、バカ、フルル、言うなー!」

「へえ。イワビー、フルル、あなたたち、よほど怖いものしらずなようね。」

プリンセスの目が怪しく光る。

「覗き見の罪は重いわよ。ジェーンも含めて、そこに3人とも直りなさい!歯ぁ食いしばりなさーい!」


 いや、プリンセスさんを怒らせてはいけないよ。本当に。

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