勇者だった俺は反逆罪で殺されたことになり魔王軍で領主として働くことになりました

兎神 入鹿

第1章 勇者の終わり

 勇者は死んだ

「滅びろ勇者! お前の首を魔王様への手土産にしてくれる」

 そういって魔王軍幹部のボーンナイトが槍を投擲してくる。

「面白いことを言うな、もし本当に俺に勝つつもりがあるなら、お前の最大の武器である槍を投げるなんてことは俺だったら絶対にしない。つまりそんなことをするのはバカで生きる価値のないクズのやることなんだよ! ここで死ねボーンナイト!」

 俺は、投擲された槍をかわし、間合いを詰める。

「砕け散れ骸骨野郎」

そういって俺は聖剣グラムをボーンナイトの脳天目掛けて振り下ろそうとすると


「ストップじゃ、シグルド! そやつを攻撃してはいけない」

 そういって俺の前に現れたのは、俺の手の甲に出来た不思議な痣を勇者の証だと勝手に祀り上げ、嫌がる俺を無理矢理、旅立たせたクズ王が現れた。

「クズ王のふりをした魔物か、騙されるわけないだろ! どちらにせよ死ね!」

 俺は剣を止めずに、そのまま振り抜こうとする。

「ヒョエェッ」

俺の前には尻もちをついて失禁するクズ王と俺の聖剣グラムを片手で受け止めているフードの男性が居る。


「ついに正体を現したなクソ野郎、お前たちはさしずめ、化け狸の魔物でそっちのクズが子供でお前が親だろ? 安心しろ、どっちも殺してやるから……。特に子供の方は、俺が憎んでいる大嫌いな人間だ、苦痛を味合わせてから嬲り殺してやる」

 そういって俺は聖剣グラムに魔力を注ぎ込み、刀身に青い炎を纏わせる。

「熱ッ! ちょっ、話聞いて! 本物! 本物だから! クズ王と私、本物だから!」

青い炎はフードを焼き払い、男の姿を白日の下に晒す。


「鬼の角に白い肌、それに赤と青のオッドアイ……。魔王 フレースヴェルグ……。お前から会いに来てくれるなんて、俺は運が良いな……。俺の両親は村のみんなから『勇者が居るから、この村は魔物の襲撃に遭うのよ勇者を生んだ両親がいけないのよ』と言われて両親と妹は村のみんなに火炙りにされたんだ……。クズ王が俺を勇者だなんて言わなければ、両親と妹は……。どうせ後ろで失禁しているのは魔物なんだろ? 鬱憤を晴らさしてくれ」

 そういって魔力の質を上昇させる。

「本物だ! 本物だから! 私は魔王で後ろで失禁しちゃってるのは君達の王様だから!復讐は憎しみを生み、また新しい復讐を生み出すんだ……。だからそんな負の連鎖は私達で終わりにしようじゃないか」

「そんなこと、魔王のお前にだけは言われたくない……。お前には分からないだろうな、目の前で助けを求めながら焼かれていく両親と妹を鎖で繋がれ、何も出来ずに見つめる事しか出来なかった俺の気持ちなんて」

 そういって残り全ての体力と魔力を賭けて、全力で叩き伏せようと力を籠める。


「分かるよ、私には妻と二人の娘が居たんだ、だけど今回の戦いで妻と娘を一人、君達人類に殺されたよ、妻たちは武器を捨て投降したのに男達に忌み者にされて最後は自らの舌を噛み切って死んだよ……。私だって人類のことは今でも殺してやりたいよ、だけど怒りに身を任して虐殺を行えば、私のような存在を生み、同じことを繰り返してしまうかもしれない……。そんな未来は作りだしちゃいけないんだ……。君なら、私の気持ちを分かってくれるね?」

 そういって魔王は受け止めている聖剣の剣先を地面に向ける。

「ズルいだろ……。そんなこと言われて、お前を殺したら俺の方が悪者じゃないか……」


 俺は持っていた聖剣を地面に置き、正座をして魔王に首を差し出す。

「この首、好きにしろ」

 そういうと魔王の後ろに居た失禁王……。失礼、クズ王が俺のことを睨みつけてくる。

「まったく、この儂を殺そうとするとは反逆罪で即、死刑だ!」

 そういって俺の背中を踏みつけてくる。

 何もしていないくせに権力を持っているからって調子に乗りやがって……。


「クズ王よ、ここは魔族の領土です。なので魔族の法によって裁きます」

 そういって魔王 フレースヴェルグが腰に提げていた剣を抜く。

「何か言い残したことは無いか?」

 そう尋ねてくるが特に何もない……。

「やっと父さん、母さんや妹の居る所に行けるんだな……。みんな、魔王は倒せなかったけど世界は平和への一歩を踏み出したみたいだよ」

 そういって涙を流すと同時に俺の世界は暗転した。

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