2度目の世界は幼馴染(あなた)の子として
るいりん
前世(プロローグ)
第1話 昔の…
「決めたわ!私、あなたのお嫁さんになる!」
広い草原に立つ二つの影。一つは小さな男の子…僕で、もう一つは僕より少しだけ背の高い女の子。そして、障害物がなく自由に吹き回る乾いた風が彼女の綺麗な茶髪をなびかせる。心底綺麗だと思った。6歳児の僕がこう思うのだから、それは誰から見てもそうなのだろう。
綺麗だ…それは髪の毛だけではなく、その子自身と純粋な心…まだ子供なのだから当たり前かもしれないが、そう思わずにはいられなかった。そういえば、今何か聞こえ………
耳から入ってきた情報に遅れて脳が反応する。それから告白されたのだと理解するのにはそれほど時間はかからなかった。と、同時に僕の顔は含めてほんのりと赤く染まっていく。耳も…。
「ぼっ、僕と!?……けど…」
「私とじゃいや?」
「そんなことないよ!」
彼女の小悪魔じみた態度の質問に対し、僕は即答した。その返事を聞いた彼女もまた赤くなっている。といっても、よく見てないとわからないほどだが…。
「じ、じゃあ決まりね!」
彼女は照れるのを隠したいのか、顔を右に向け、勢いに任せて声をあげる。本当にかわいい……僕なんかで釣り合うのだろうか。戸惑いながらも表には出さずに……いや、彼女から見て多分隠しきれていないのだろう、少しだけ、本当に少しだけ戸惑いをあらわにしながら僕は頷く。そして…
「「大きくなったら結婚しよう」」
揃えるつもりはなかったが、誓いの言葉を二人同時に一言一句違わずに相手へと投げかけた。
もう一度、先程よりも強い風が吹き、彼女の髪がなびくと同時に草原の草花がさわさわと音を立て、高くなった体温を落ち着かせるかのように体中を冷ましながら通り過ぎていく……。
どんな顔をしていたのだろう……僕はとても他人には見せられないくらい顔を赤らめていたに違いない。
しかし、彼女が自分の髪を手ぐしで整え終えた時、彼女もまた先程よりもよりはっきりとわかるぐらいに赤くなっているのが見えた。やはり彼女は綺麗で………すごく可愛いと思った……――――――
―――――俺の記憶にあるのはこれだ。
彼女への想いは今でも変わらない…いや、ほんの少しだけ変わったかな…。昔よりも彼女に必死になっている。
現実を知らなかった俺は、あの時気軽に結婚などと言ってしまったが、それがどれだけ難しいことなのかは大きくなり、世間を知り、世の中を学んでいくたびに思い知らされていく………。
彼女は大企業の社長令嬢で、俺は一般家庭の生まれである。彼女の親はその子のやりたいことに対しては放任しているのだが、跡取りとなる…つまり、付き合う相手にはうるさく、庶民である俺には到底手が届かない……が、俺は諦めてない。俺が頑張れば必ず追いつくはずだ…認めてもらえるはずだ…努力は必ず報われて、神様はそんな人を後押ししてくれるはず…そう信じてこの世の中の理不尽と不平等に抗う、そんな俺の成り上がる物語…………の、はずだった…………
△ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲ △ ▲
あれから時は経ち、俺は高校生3年生になっていた。それも全国でも有名な進学校…東能学園高等部。
小中学校ともに勉学に力をいれ、一般家庭出身の俺でも彼女…
ちなみに優奈も同じ学校に在学している。彼女は家柄の関係で一般ではなく推薦でこの学園に入学していたが、それでも学力ランキングでは常に上位に入っているほど頭は良い。優奈を追いかけて同じ高校を選んだのは俺のほうだ。ちなみに、進学校といってもどちらかといえばお嬢様お坊ちゃま学校としての認識が強い。
しかし、同じ学年だけどクラスは同じではない。それでも、いつも楽しそうに会話しているのを、盗み聞きしているわけではないが、よく耳にする。昨日のドラマの話しから勉強の話まで、とにかく何でも話せ、他人との壁を作らない優奈は学園でも学年関係なくかなりの人気者であった。
昔はもっと元気の塊のようなガツガツした性格だったが、今の彼女はお嬢様のオーラを醸し出している。おそらく両親や教育係の…誰だったかな、確か
ある日、俺がクラスでよくつるんでいる友人と廊下で話をしていたとき、隣を通っていった女生徒たちの会話が耳に入る。
「そういえば、あの子卒業してすぐに結婚するらしいよ」
「ええっ本当!?誰々!?」
卒業してすぐに結婚することはこの学園では珍しいことだが2,3年に一度はいるみたいだ。むしろ、稀なケースとして在学中に結婚する子もいるくらいだ。ただし、そのすべてといっていいほど政略結婚だが……。
俺の学年ではまだそれを見たことがないため、いったい誰が結婚するのだろうか…と、少し気になった。
「(何だろう…何かいやな予感がする……)」
背中がぴりぴりとかゆい感覚に襲われる。しばらくしてそれが治まりかけた時、俺の中の懸念は疑念へと変わっていった。いやな予感や不安は膨れるばかり、心臓の上部分を掴まれたかのような焦りが俺の中をいっぱいにしていく。しかし、
「おい!?…どうした?なんかぼけっとしてたぞ…」
高校で最初にできた友人…南沢春斗(みなみさわはると)が俺の方を前後に2回ほど揺さぶってきた。普段なら少しうっとうしくもあるその行為は、今回ばかりは救いだった。
「ぁ…あ、うん大丈夫。悪いお前の後ろにでかい虫飛んでたから気になってた」
恥ずかしさから右手で右耳たぶを軽く握り、視線を春斗から少しそらしてごまかす。
「それならいいけどよ……」
「ははは…」
いつの間にか胸の違和感は消え、思考を埋め尽くしていた不安や焦りが落ち着いていた。…それでも完全に消えたわけではないが……。
誰かと話す、相談するというのは心を落ち着かせてくれる。案外馬鹿にできないものだった。
俺はいつもどうりの表情に無理やり作り変え、春斗に向ける。春斗のほうは少し心配しているような表情をしているが、話を再開させると同時に元に戻っていく。
「それでよお――――――」
あの感覚は…
『――本当は気づいていた――』
「結局その子誰なの?」
「2組の子なんだけど―――」
彼女達は隣を通り過ぎた後近くにあったトイレ周りで止まり、しゃべっていた。俺はその後も春斗の話を聞きながら、先ほどの女生徒の話を聞いてた。正確には春斗の話はほとんど聞き流しだったが、適当に相槌をうってごまかしていた。
先ほどから事情などの考察はすれど、肝心の本人の名前が出てこなかったが、ようやくその子の名前が判明した……優奈ではなかった…。違う子だった…。
うおおおおおおおおお!!
開放感が隠せない。おそらく…
「何ニヤニヤしてるんだよ?ちょっと気持ち悪いぞ…」
春斗にもばれている。
どうやら優奈ではないらしい。心底ほっとした…マジで。
「悪い、昨日見た番組で面白いのあったから思い出し笑いしてさ」
春斗から一瞬だけ視線を逸らす。
その後春斗からの追い討ちはなかったため番組の詳細などはきかれなかったから、これ以上ごまかす必要がなくなった。
それから2、3分が経過して、周りが静かなのに気づく。そろそろ次の授業が始まるようだ。見回していた視線を春斗に戻してみると、なにやらあせっていた。
「やっべ、準備してなかった」
おい…やることはやってけや。
俺は廊下に出る前に準備して置いたので問題はなかったが、彼があわてるので急いで教室に戻った。
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