アンチ廃人

起

アンチの王

「『お前まだこんな下手くそな演奏を動画に上げてんのかよ。いい加減親のすね齧ってないで辞めて、真面目に働けゴミニートwww 』っと... 」

　深夜２時、俺、華冥使（かめいし） 理雄（りお）（36）はカップラーメンが散らかっている真っ暗な部屋の中、ノートパソコンにかじりついていた。画面の先には、俺が長年使い続けているネット上の喋る玩具（ゴミ）がいる。

　あいつは自称「弾き語りギター配信者」だそうだが、俺達からしたら「ゴミのような音を出す玩具」でしかない。なぜなら、あまりにも下手過ぎるからだ。どの動画も低評価が高評価の10倍近くあり、コメントも、9割5分以上アンチコメント。俺は今日もこの玩具に、溜まったストレスを文字としてぶつけた。

「SAITAMA700：それなwww 」

「RiO様最高：流石RiO様！見事な正論ですな！」

　この玩具を叩くと、いつものように俺の仲間達が集まって俺を讃えたり、俺と一緒にあいつを叩いてくれる。

「... また通知か。」

　通知が来たので、俺は再び通知を確認した。

「てるにゃ：彼は頑張ってるんですよ。叩くのは可哀想じゃないですか！下手だからって叩くんだったら、自分が弾けるようになってからにしてくださいよ！」

　... 。

　ほう、やろうってのか？たまにいるんだよな、あの玩具の信者が。だが、そん時は仲間と一緒にこいつを袋叩きにしてこいつも新しい玩具にするまでだ。

「RiO：は？あいつが何やったか分かって言ってんのか？」

　俺は奴にこう返信した。すると仲間も後に続く。

「一撃のクリムゾン：信者マジ頭おかしい」

「RiO様最高：お前RiO様を知らねえのか？この人は有名な弾き語りのギタリスト動画配信者なんだぞ。」

　そうだ。仲間の言う通り、俺は伝説の弾き語りギター動画配信者「RiO」だ。俺の仲間とは当然、俺の元リスナーのことだ。チャンネル登録者数は既に100万人を大幅に越えている。だが、それも今となってはずっと昔の話だ。もう最後の投稿から十年近く経っている。

「登録者の数だけ○○が増える：ゴミニートとか言ってお前もギター配信もうしてないじゃねえか。人のこと言えねえだろ。」

　うるせーよ。動画投稿してたらアンチ活動してねえっての。確かに俺はニートだ。と言うか、今やっていること以外何もすることないし。

「あ あ：よくこんなにニート続けていられるな。親のすね齧り虫が」

　またあいつの信者からのコメントだ。十年もニート続けて親のすね齧っているって？ところが、そうではないんだな。不思議だろう？正直、俺も不思議だ。

　自分で言うのもなんだが、俺が動画で稼いだ金の量は半端ない。大学時代にギター配信を始めてから、辞めるまでの6年分の動画の収入で、辞めて十年近く経っている今も生活出来ているのだからな。

「一撃のクリムゾン：は？RiO様を無職とか決めつけんな！」

「RiO様最高：あんなゴミと違ってな、RiO様は社会適合性あんだぞ！」

　どうやら仲間は余りに信仰心が厚いのか、本気で俺が働いていると思っているようだ。

　高額収入を得たとは言え、そろそろ残高もやばくなってきた。いい加減働くか、配信を再会した方がいいんだろうか。今さらこんな事思うのか... こんな最高の玩具を手放せねえってのに配信再会できっかよ。